ガリシア~ポルトガル、ノスタルジックな夏休み10
Ponferradaに近づくと巨大な太い煙突からもくもくと水蒸気があがっているのが見えます。そう、原子力発電所です。石炭火力発電がウラニウムに置き換わってしまったのです!高速道路からの取り付け道路もきれいに整備されて、30年前の面影はまったくありません。
かつて線路が通っていたあたりは巨大な貯水池になっています。原発では冷却のために大量の水を使います。水の乏しいスペインですから、人口湖を造ってカンタブリア山脈からの水流を貯める必要があります。閉山した炭鉱では多くの離職者が出たはずですから、この工事は大きな雇用機会となったはずです。炭鉱が閉山となった町は、生き抜くために補助金や公共事業が付いてくる原子力を受け入れたのでしょう。
1980年の夏休みにPonferradaの駅前bar兼安宿El Tunnel(トンネル)に宿泊していた時、宿の娘のカルメンと毎晩踊りに行ったディスコも、今は貯水池の底なんだなあと、なぜか今でも鮮明に覚えている彼女の白い肌と黒髪のくっきりとした顔立ちを思い浮かべながら、瓦解という言葉がふと浮かんできたのです。
炭鉱夫は危険で重労働、あちこちから出稼ぎで来ていました。労働の後は酒というのは洋の東西を問いません。El Tunnelはいつも賑わっていました。飲んでいると誰かが突然「俺のおごりでここにいるみんなに一杯!」なんて叫ぶとコップの赤ワインが回ってきて、すると別のグループからも「お返しに俺の勘定で全員に!」という感じでまた一杯。
僕もたまらずやってみました。「みなさんに一杯を!」数十円のワインや安酒なので、学生でもできる範囲の出費でしたし、おしゃべりの輪に入れてもらい、日本人なんて初めて見たという炭鉱夫さんたちと仲良くなれたのは大収穫。そういえば出稼ぎのポルトガル人も多かったな。
様変わりしたPonferradaをそそくさと後にして、Villablinoに向かいます。途中たくさんの炭鉱がありますが、ひっそりとして建物のガラスが割れていたり、どうもすでに閉山したか、閉山間近な感じが漂っています。かつて筑豊や夕張や釧路や三井三池の炭鉱跡で見た風景そっくり。
石炭という、掘ればなくなる資源を目指して、たくさんの人間が集まってきた繁栄と、役目を終えて人間が去り、棄てられた町や施設の枯死。待てよ、併走するレールに光があります。どうも使われているような気が、と思ったらはるか彼方にぽつんと列車の姿が!
あわてて道端に車を停めて撮影。
ディーゼル機関車が石炭車を牽いてノロノロとやってきました。蒸気機関車時代とは違い感動はありません。はっきり言って不細工な列車です。しかし、わずかに残った面影の交差が嬉しかった。
Villablinoでは駅の選炭施設にダンプカーが石炭を運んで来ています。さっき来た石炭列車はここで積み込みされてヤマを下りてきたのでしょう。とはいえあまりにも殺風景。本来炭鉱にはあるべき、生産現場の活気がまったく感じられません。
記憶を辿って彷徨うと、建物の裏手にあった坑口までたどりつきました。かつて炭鉱にもぐって行ったトロッコたちは全て打ち棄てられ、剥がされたレールが山と積まれ、抗口はすでに塞がれています。おそらく数年のうちに痕跡全てが消えてなくなってしまうことでしょう。ギリギリに間に合ったのかどうか、でも残影だけは留めておけたような気がしました。