久々のヨーロッパ(4)プロヴァンスのドメーヌ パンシナ訪問
4年ぶりの再会
プロヴァンスはいつ訪れても気持ちいい。
とりわけド ウェル家のドメーヌ パンシナには、セザンヌが故郷のエクサンプロヴァンスで数えられないくらい描いたサントヴィクトワール山と、青空と、咲き乱れる草花の強い色彩が実際に溢れていて、何回来ても飽きることがない。
当主のアランとは抱き合って久方ぶりの再会を喜んだ。コロナで会えない4年間にだいぶ老けて、ちょっと背が縮んだ気がしたが、まあ、お互いさまか。僕より3年上のアランは68歳だ。。
ギリシア・ローマ時代から続くワイン醸造所
来られなかった数年の間に、長年待ち続けた許可がようやく下り、醸造所の建物が増築されていた。外に置いていた醸造タンクも断熱された屋内に収まり、温度管理が完全にできるようになり、また作業導線が整理されて素早く動けるようになったので、かなり楽になったとアランは話す。
醸造所の基礎はローマ時代、部分部分で中世から近世にかけて築かれた建物だから、簡単には許可が下りないのだろうが、申請をしたのは20年近く前のはず。随分と気の長いお役所仕事だ。
ドメーヌ パンシナの辺りには、ローマ時代以前のギリシア時代にぶどう栽培が持ち込まれ、ワイン醸造が行われていた。フランスでも最も古いワイン産地だ。醸造に使われた土器のアンフォラはそこら中から見つかり、畑から発掘されたビーナス像はアヴィニョンの考古学博物館に収蔵されている。
家の前庭にはローマ時代から枯れたことのない泉があるが、最近水が出なくなったので掘り返してみたところ、湧水を引いている土管の中が詰まってしまっていたので、新しい管に繋ぎ替えて水がまた出るようにしたという。掘り出された古い土管が投げ捨ててあるのだが、聞くとローマ時代の土管だそうだ。
よくも2千年近くの間に詰まらなかったものだと感心する。これは届け出ていないので、調査には来なかったらしいが、なんとも凄い話がそこらに転がっているものだ。
プロヴァンスの新酒を試飲しながらのランチ
家の庭に出されたテーブルで昼食を取りながら、2022年のワインを試してみた。本当に相変わらず美味しい。これまで毎年、アランの新酒を味わせてもらうたびに繰り返した誉め言葉を使ったところ、昨年は厳しかったという。
昨夏は8月中旬まで全く雨が降らず、このままではぶどうが焼けて全滅と思われた時に雷雨が発生、大雨が降って救われたそうだ。日照りがぶどうの糖分をたっぷり過ぎるほど高めたのだが、雨のおかげで水分が補われて薄まってくれたそうだ。
たしかに果実味がしっかりとしている気がする。だが、いつも通りキレはいい。タンクを屋内に移して、温度管理がしやすくなったことも功を奏しているのだろうか。
食事をワインに合わせて楽しむ
気持ちのいい庭のテーブルで、奥様お手製の料理をいただく。
前菜:ズッキーニのフラン
前菜はズッキーニのフラン(卵タルト)。 カレー風味のトマトソースをかけて、パセリと分葱が添えられる。野菜の豊富なプロヴァンスで、ちょうどズッキーニの季節になったところだ。
合わせたのは2022年のヴァール白。野菜料理には万能なワインだが、とりわけズッキーニとの相性は美味しく感じた。フランの卵ももちろんオーガニックの地鶏で、ブロイラー卵の臭みがないから、このきれいな白で十分なのだろう。
メイン:サーモン オウ フォー
メインはサーモン オウ フォー(鮭のオーブン焼き)。鮭の切り身にたっぷりのオリーブオイルをかけて、レモンとプロヴァンスのハーブを載せて焼き、ソテーした季節の野菜が添えてある。
合わせたのは2022年のヴァールロゼ。魚料理や野菜料理全般におすすめの万能ロゼだが、ピンクの鮭にはまさにピッタリの相性。
ちなみにヴァール白も試してみたところ、合うのだがちょっと弱い。コートドプロヴァンス白を開けてもらったら、こちらなら力がありとても美味しい。ただヴァールロゼよりもキレがいい分、鮭の後味も切るから、ワインを楽しむか料理を楽しむかで好みは分かれるだろう。
食後:プロヴァンスとサヴォアのチーズ
食後のチーズは2種。プロヴァンスのシェーブル(ヤギ乳)と、アルプスに出掛けた時に生産者から買ったボーフォール(牛乳)を出してくれた。
アランはチーズだからと、コート ド プロヴァンス赤を開けてくれたのだが、どうもしっくりこない。
シェーブルに赤だと口の中で喧嘩が始まり、収拾がつかない。そこでコート ド プロヴァンス白を試してみたところ、しっくりときて実に美味しい。
ボーフォルにコート ド プロヴァンス赤はまだマシだが、コート ド プロヴァンス白を合わせると口の中できれいに溶け合い本当に美味しくなるから、相性は赤ではなく白だろう。ついでにヴァール白も試してみたら、こちらはボーフォルに負けるから、それなりに力とキレのある白ワインでなければいけない。
「チーズには赤ワイン」と思われているが、先入観を持たずに白ワインも試してみることをおすすめしたい。
コート ド プロヴァンスとヴァール
アランはAOC格付のコートドプロヴァンスと地酒のヴァールを造っている。どちらにも赤・白・ロゼがある。
和食と合わせるならばAOCだと力が強くてワインが勝ちぎみなので、ヴァールのロゼや白をおすすめすることが多い。何も考えなくてもワインが寄り添ってくれる。本当に万能の食中酒で、最良のベーシックワインと言える。
しかしワインとして楽しめるのはコートドプロヴァンスの方だ。特にフランス料理と合わせる時は、ワインと料理の力が互いに響きあって美味しさの高みへと昇っていく醍醐味が楽しめる。
いや、日本料理だって鯛や鱸のような味の強い魚ならコートドプロヴァンスの方がいい場合もあるから、ヴァールに満足されている方も、ぜひコートドプロヴァンスを試していただきたい。
田村安
マヴィ代表
著書の「オーガニックワインの本」(春秋社刊)でグルマン・クックブック・アワード
日本書部門2004年ベストワインブック賞を受賞
フランス政府より農事功労章シュヴァリエ勲章受勲
ボルドーワイン騎士Connétablie de Guyenne
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