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ワインの話
パエリャを囲むコティーノ家

久々のヨーロッパ(2)|念願のバレンシア州デニア訪問

3年越しの念願がかなったデニア訪問

2020年夏に来るはずだった、コティーノ夫妻の住む町デニアにようやくやって来られた。

2019年にコティーノ家のパコとマリア夫妻が来日した際に、翌年訪問する約束をして、航空券まで購入したのだが、コロナパンデミックで全便キャンセルとなり、断念せざるをえなかった。

飛ばなかったエールフランス便の航空券は払い戻されたが、乗り継ぎのイベリア便の航空券はバウチャー(2022年まで有効)にはしてくれたものの、結局期限切れで捨てることになってしまった。

これまで旅行の数か月前には航空券を手配していたが、今回は学習してギリギリまで航空券を手配しなかった。思い通りの宿が選べなくなったりするのが難だが、旅行自体に行けるかどうかはもっと深刻だ。

ヨーロッパ人達にとっても3年ぶりに自由な旅行シーズン

スペインのテレビニュースによると、今年の復活祭の休暇では過去最大に人が動き、いたるところで道路は大渋滞だったという。誰もがコロナで規制された過去3年間に溜まった鬱憤を晴らしていて、需要が多いのでホテル代も航空券代、レストランのメニューなど旅行費用も過去最高に跳ね上がったが、気にも留めずに大いに消費していると解説していた。

当時と比べると円安ということもあるが、ユーロでくらべても航空券もホテルも2倍近いというのに、どこも満員な状況。しっかりと楽しまないと元が取れない。

地中海リゾート地デニア

クルーザーを運転するパコ コティーノさん

パコとマリアは大歓迎で、クルーザーに招待してくれた。幸い好天に恵まれ、波も静か。スペイン人たちもパンデミック収束を待ちわびていたのだろう。周辺にはヨットとクルーザーがたくさん浮かんでいた。

岬の先まで一回りした後、次男のエドアルド君も加わっての昼食。ごちそうはバレンシア名物のパエリャ。バレンシア風は本来鶏肉のパエリャなのだが、この景色の中ではやはり海の幸だろう。

パエリャを囲むコティーノ家
パエリャを囲むコティーノ家・右からマリアさん、パコさん、エドアルド君

コティーノ家の新農場 モンテサンコ・テュラーダ

さて、この3年の間にパコとマリアは新たに農場を購入していた。従来のアランレオンとモンテサンコの農場はバレンシア県内陸部の標高7~800mの高原にあるが、今回購入したの農場は隣のアリカンテ県の海岸からほど近いテュラーダにあり、標高は200mほど。地元ではアヴィアール・アルタと呼ばれている。

パコとマリアはバレンシアとアリカンテの県境に近いデニアに住んでいるので、高原の農場には1時間半程かけて通っているのだが、テュラーダの農場には30分以内で行ける。

この地域では伝統的に干しブドウ生産が盛んで、品種はモスカテル(ミュスカ)が主流。ただ干しブドウはギリシアとの価格競争に敗れて衰退、多くの畑で減産のためぶどうの樹が引き抜かれてしまったという。残ったぶどうで細々とワインが造られているが、それほど評価が高いわけではない。

本当に自然状態のぶどう畑

バレンシア州アリカンテ県のぶどう畑

ここアヴィアール・アルタでも多くの樹が抜かれていて、残っていたぶどう畑はわずか4haに過ぎない。それもほとんど手入れされることなく放置され、農薬や化学肥料とは無縁の状態だった。樹齢は60年を超す。

これはパコとマリアにとっては理想的だった。ぶどう畑は手入れがされていないので自然農業と同じこと。収穫量は極めて少ないが、テロワールを完全に反映している。試しに手摘み収穫で厳選したモスカテルの房をアランレオンの醸造所に運び、パコが思い描いたとおりに丁寧な低温醸造したところ、想像通り素晴らしい仕上がりとなった。

醸造所は完成間近

ステンレス製ワイン発酵タンク
小振りのステンレス醸造タンクが並ぶ醸造所

醸造所の建物も荒れ果てていたという。人が住んでいたが廃墟に近い。

この建物は昨年9月から修復工事を開始して、なんと半年の間にほぼ出来上がっていた。パコの本業は元々建設業なので、専門家だから可能といえるが、それでもとんでもないスピード工事。しかもアランレオンやモンテサンコ同様にパーフェクトの仕上がりなのは凄い。

元からあった建物は、景観保護規制のため増築ができない。そこで地下を掘って醸造設備を入れるスペースを作り、完全に醸造管理できる真新しい設備を収納したとのことだが、莫大な費用が掛かっているのは間違いない。

すでに真新しいステンレスタンクや圧搾機も据え付けられており、今年の収穫はここで仕込むことになる。

絶景の中で育つぶどう

マリアが畑や敷地内の林を案内してくれた。

かつて引き抜かれてしまったぶどう畑を復活させるため、ぶどうの苗を植え始めていたが、一部にはオリーブも植えてオリーブオイルも造るという。パコとマリアのことだから、きっと贅沢で上品なオリーブオイルができることだろう。

畑の端からは地中海が望める。地形は緩やかな谷になっているので、強い日差しの影響で山風と海風が毎日吹き、昼と夜の温度差が激しく、ぶどう栽培には最高の条件だ。

ワインバー@モンテサンコ・テュラーダ

屋外でワインテースティング
モンテサンコのワインバーでの試飲

デニアからアリカンテにかけての海岸地帯はヨーロッパでも有数のバカンス地。一年中多くの旅行者で賑わう。

新装した醸造所の建物の一部にはワインバーが設けられ、5月からはタパスも提供するという。ゆったりとした気持ちのいいスペースで、モンテサンコやアランレオンのワインを飲むことが出来るようになる。

屋外には日差しを遮るために木枠のパラソルが置かれているが、強風のため折れてしまっていた。マリアは「ナチュラルなデザインを考えて木製にしたけど、強度不足ですぐに折れるから金属製に取り換える」と言っていた。この風がぶどうを美味しくするのだから仕方ないところ。

最新アランレオンとモンテサンコの試飲

屋外でタパスをつまみに試飲
モンテサンコの新作モン モスカテル

このパラソルの下で新しいワインを試飲することにした。

スパークリングワイン

まずはカヴァから始める。

ソロ カヴァ ブリュット

2021年の収穫から品種はマカベオ75% シャルドネ25%になった。(以前はマカベオとシャルドネは50%ずつだった。)

我が家では食卓の定番で、いつも通りとても飲みやすいが、これまでよりも深みがあり、より美味しく仕上がっている!

今年からラベルが黒ベースに変わり、ずいぶん高級感がある。

ソロ カヴァ ブリュット 発泡 

モン カヴァ ブリュット ナトゥラーレ マカベオ レセルバ

品種はマカベオ100%、門出のリキュールを加えていないキレのいい辛口。ボトル詰め後に3年間寝かせるレセルバで、3月に先行輸入したものと同じ2019年だが、その美味しさを再確認させてもらった。

泡のキメの細かさも、香りも、コクも、酸のバランスも本当に申し分ない。極上のカヴァだ。

白ワイン

ブレス 白 2022年

2022年は猛暑と旱魃で収穫量がだいぶ減ったが、その分例年より凝縮された果汁となった。

とてもフルーティーでパイナップルぽい、ライチも香る軽やか、アペリティフにピッタリ、和食にも合わせやすい。これまでよりもかなり美味しくなっている。若い女性向けというか、素直にいくらでも飲める。

ブレス 白

ソロ 白 2022年

ブレンドはマカベオ80%、ソーヴィニヨンブラン20%。夜間に収穫したぶどうを低温で12時間スキンコンタクトしてから搾汁し、ステンレスタンクで醸造、低温で熟成している。醸造温度を以前よりも低めにしたという。

う~ん、本格的なグルメワインだ。飲み口は力強く、よりガストロノミーな料理向けになり、本当に美味しい。シーフード料理には必ず合うので、海辺に住むコティーノ家の食卓では魚料理の定番ワインとのこと。

ソロ 白

モン モスカテル 白 2022年

初めての収穫でアランレオンの醸造所に冷蔵トラックで運んで醸造した、試作ワイン。

まず口に含むと典型的なマスカット、とにかく香りがすごく立つ。味はドライ。塩っぽさも感じるので、シーフードに向く。舌触りはまろやかで、アフターは極めて長い。これが干しブドウ用だったとは信じられないくらいに美味しい。そして驚いたことに力強い。

マリアは鮨には合うというが、僕にはワインが美味しすぎて主張が強いので、醤油をつけないと難しい。(塩で食べる鮨には向かないが、ヨーロッパ人は必ず醤油を使うから大丈夫。)生ガキには合いそう。テーブルに出してくれていた生ハムとも合うから、結構万能だ。

モスカテル試作品はオーガニック申請前なので、認証は付かないが間違いなくオーガニックだ。
無理を言って、若干量を譲ってもらうことにした。夏前には入荷予定なので、ぜひお試しいただきたい。

モン モスカテル 白

モン 白 2022年

モンテサンコの白ワインでは最高峰。マカベオ100%、24時間低温でスキンコンタクトして搾汁、オークの新大樽で2週間の発酵を経て、ステンレスに移して2~3週間置き、昨年12月に瓶詰めされたもの。

モスカテルよりも更に力強く、よりガストロノミックなワイン。舌平目のムニエルや魚の揚げ物、クリームパスタ、鶏肉等、しっかりと作り込んだ料理と合わせたくなる。だがワインだけでも相当美味しい。香りにはハチミツのような感じもあるが、すごく辛口でギャップが激しい。

モン 白

赤ワイン

新ブレス赤2022年

ここからは赤ワイン。これまでロブレ赤シリーズには、ブレス、ブレス ロブレ、ブレス クリアンサと3種類あったが、新しい農場も増えたこともあり、作り分けることが続けられなくなり、今年からは1種類に統合された。

規格はこれまで一番人気のあったブレス ロブレに近く、タンクで発酵させた後オークの古樽に移して3~4ヵ月熟成させている。

これも美味しい!樽感は若干感じるものの、とても上品なので、合わせられる料理の幅は広いだろう。

ブレス 赤

ここでふと思い付き、モスカテル白に戻ってみたら、ブレス赤の後でも使える程の強さで、十分太刀打ちできる。これはコース料理にペアリングする時使える便利な白ワインだ。

ソロ赤2021年

ソロ赤もリニューアルされていた。以前はボバル80%、シラー20%だったが、シラーをカベルネソーヴィニヨンに変更したという。タンク発酵後に新樽に移して6ヵ月熟成させている。

「これはいいな~!シラーよりもずっと良くなった!」と言ったら、マリアは「シラーはより濃く色が付くが粗さも出る。カベルネはもっと骨格があり上品に仕上がる。」との返事。

ドライアプリコットの香りもあり、リオハのレゼルバのような感じが出ている。まさに誰もが求める味。飲みやすさ、味に深みがあり、しかも舌に残らないから、いくらでも飲み続けられる。

コティーノ家の食卓でも肉料理ならソロ赤が一番多く登場するという。

ソロ 赤

スローモン 2021年 カサデラヴィーニャ

2020年から始まったスローモンは、2021年は名称にカサ デ ラ ヴィーニャが入った。モンテサンコ農場の旧名がカサ デ ラ ヴィーニャだったとのことで、これをワイン名に付けたとのこと。

品種は100%ボバル。モンテサンコはブレンドはせずに、単一品種でテロワールを反映させている。

口当たりが柔らかい。まず塩味を感じるのでガストロノミー向け。単一品種なので食事を選ぶが、スローモンはその中では比較的合わせやすい。本当に美味しい。ソロ赤は万人向けだが、僕個人的にはこちらが好きだ。

スローモン

モン テンプラニーリョ 2020年

リオハのイメージが強いテンプラニーリョは、バレンシアの土着品種とは言えないので、パコは導入に際して少しためらったが、ボバルの古木にテンプラニーリョを接ぎ木することで、テロワールとの融合を試してみたところ、リオハとは違った個性が生まれた。

リオハのテンプラニーリョよりもよりフルーティー、パイナップルや赤い果実の香りが強く、ローズマリーも香りバレンシアらしさが出てきた。酸味はリオハよりも少ない。

ワイン好きのためのワイン。これはまだボトルしたばかりで香りが落ち着いていない、数か月後には落ち着いて真価が出る。まさに肉専用のワイン。

モン テンプラニーリョ 赤 

モン テンプラニーリョ 赤 (※現行販売品です。ヴィンテージは異なる場合がございます)

マリアによると、リオハの大手蔵元はスペイン中からテンプラニーリョをバルクで購入して混ぜて使っているだけではなく、バレンシアからはボバルもバルクで購入しているという。使い道は色の濃いボバルをブレンドすることで、ワインの色が濃くなるからだという。桶買いするとDOCに適合しなくなるはずだが、書類をすり替えてテーブルワイン用に使った形に偽装している、というのが業界では公然の秘密らしい。

マリアはもっと驚く話もした。なんとアリカンテのモスカテルはイタリアのアスティに輸出されて、スプマンテにブレンドされているという。偽装の手口は同じだろう。評価の高くないアリカンテのモスカテル生産者にとってはありがたい話だが、知らずに高い値を払うのは消費者だ。

モン ボバル センテナリオ赤 2019年

最後に出てきたのは従来からあるモン赤だが、名称にボバルとセンテナリオが付いた。センテナリオとは【世紀】、つまり樹齢100年を超えるボバルの古木のぶどうだけを使っている、限定5000本の貴重なワインだ。

フレンチオーク新樽で1年熟成で、1月からこの2019年ビンテージに変わった。

複雑な味だが飲みやすい、バニラ感もしっかりしている。しっかりと作り込んだ食事に合わせたいが、食後にはそのままボトルを抱いて飲み続けたいワインだ。

モン 赤

メディアも高評価のモン

この訪問記を書いていたら、ちょうどマリアからメールが届き、スペインのワインガイド誌【Guía Peñín】(ギア ペニン2023年版で、モンテサンコのワイン全種類が90点以上の評価を得たとのことだ。

コティーノ家のワイン造りは、コロナで世界の動きが停まった3年間に大きく飛躍したと感じる。

田村安

マヴィ代表
著書の「オーガニックワインの本」(春秋社刊)でグルマン・クックブック・アワード
日本書部門2004年ベストワインブック賞を受賞
フランス政府より農事功労章シュヴァリエ勲章受勲
ボルドーワイン騎士Connétablie de Guyenne

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