フランスオーガニックワイン生産者訪問5
午後はローヌ川を渡り一路東へ。平坦な西岸と違い、アルプスへ向かうルートで丘陵が続き、ヴァルレアスへ向かい高度を上げていきます。途中、街道が岐れるところに大きな直売所があり、車を停めます。実はこれは僕のお気に入りの場所で、マリ=ピエールの両親が営むドメーヌ ベラールです。
元々大地主で、80年代にはコンクールでメダルを総なめしたほどの醸造家ですが、今は娘や孫がかわいくてしかたないというおじいちゃん。でも自慢はオリーブを絞る石臼。
オリーブはカバニスさんやドウェルさんも植えていますが、まあ、ぶどうの脇にある副産品。でもベラール家のオリーブはフランスNo.1と評価が高いNyonsのAOC。さらりとした全く嫌味のない絶品です。僕は長年ヨーロッパで暮らしましたが、なんでここまで違うのだろうと思えるほど、一般に出回るオリーブの実とは全くの別物なんです!
瓶やパックではなく、無造作に盛られたものをすくって惣菜用のトレイに入れてくれます。(ポンスさんのランチでお腹一杯というのに車の中でむしゃむしゃ食べてしまいました。)オリーブオイルも単に石臼で潰しただけで、プレスなどせず流れ出ただけ!実に贅沢なオイルです。市販品とは次元が違います。そして圧巻はラベンダーエッセンシャルオイル。とにかく大量のラベンダーを使った自然そのもののアロマ。しかも小瓶などなくて300mlもの大瓶で。わずか1滴で癒されるのだから、これまたとびきりの贅沢。
こんな家で育ったマリ=ピエールが、本物しか求めない女になるのも当然と納得。彼女のワイン造りは先に訪ねた素朴なポンスさんとは正に対照的。凄まじくストイックでスピリチュアル!なんと17世紀の修道院に小中学生の息子2人と3人で暮らしているのです。敷地は160ha!
妥協は一切できない性格で、どうもそれが理由で離婚。たった一人で3人の子供を育てるお母さんというのに、10haの畑も蔵の作業も完璧にこなし、珠玉のワインを造ってしまいます。
広い敷地の最もいい斜面だけをぶどう畑として、残りは森林のまま。湧き水が小川となり流れ出ていきますし、鹿や猪や雉や鴨やリスやキツツキや様々な生き物の楽園で禁猟区にしています。だから彼女はRefuge(隠れ家、避難所)と名付けたのです。ジビエ料理もよく食べ、狩猟の盛んなフランスでは所有地でも禁猟区にするのは極めて稀だそうで、安らぎを求めて動物たちが集まるのです。
ぶどう畑は一つの斜面だけですが、高低差が100mもあり、条件がまるで違います。もっとも水はけがよく地層も複雑な上部の畑には樹齢50年以上の古株(ヴィエイユ・ヴィーニュ)が植わっています。寒暖の差が大きく、収量は少ないですが極めて凝縮した小粒のぶどうが収穫されます。そして収穫は10月と、コート デュ ローヌ一般よりも3~4週間も遅く、ブルゴーニュ並み!
彼女は一人ぼっちで蔵に篭り、お気に入りのアコーディオン音楽のCDを聴きながら醸造作業をします。没頭していてふと気が付いたらタンクの蓋に絵を描いていました。この音楽のジャンルがRomance。
マリ=ピエールのワインには、いわゆる典型的なコート デュ ローヌとは全く異なる、雑味のないクリスタルのような透明感があります。特に標高の高いヴィエイユヴィーニュのものは、ジゴンダスなどの北ローヌ銘醸地からブルゴーニュを思わせる繊細さがあり、AOCは敢て外してヴァンドターブルとして格付け外にしてしまい、Romanceと名付けました。格付けなど彼女の作品には無関係。はっきり言い切りますがぶっちぎりの絶品です。
今回は短い訪問で、子供たちにも会えず名残惜しくルフュージュを辞しましたが、マヴィ福岡店スタッフたちもとても気に入ってもらえたので、来た甲斐がありました。
あとはスペイン国境のペルピニャンまで300kmのロングドライブ!朝から合計で520kmはいささかキツイ(泣)