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旅の空

ガリシア~ポルトガル、ノスタルジックな夏休み8

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1970年代、生意気な大学生だった私は旅行ガイドブックをバカにしていました。どうせ薄っぺらな観光情報ばかり載せた素人むけの書物と。そんな私が最初のヨーロッパ旅行の前に購入して、留学中は愛読書とさえ言えるくらいに読み込んだガイドブックがあります。それが「スペイン (ブルーガイド・ワールド)」。溢れるほどの知識とスペインへの傾倒。歴史や文化、建築様式などの記述は殆んど専門書級でした。今回の旅行に際して読み返してみてもなんら古さを感じさせない名著です。

La Coruñaはその中でガラスの街と紹介されていた、ガリシアの中心的港町です。旧市街は細長く海に突き出した岬で、19世紀から20世紀初頭の美しい細かく桟の入ったガラス窓のカラフルな建物が並び、素晴らしい景観で、まさに粋なマドロスという言葉がぴったり。こんな華奢な建物が今でも現役というのは感動もの。そこでは「茹蛸を肴に、焼き物の盃に注いだ薄く辛い白ワインを飲む」という記述に誘われ、はるばるマドリッドから夜行列車に乗って訪ねた最果ての町。まったく当時札幌から走っていた夜行急行「宗谷」に乗ってたどり着く稚内のような気分でした。

そしてなんと、今でも戦前からのかわいらしい路面電車が走っているのです!

「時間が止まったような情景」、それは変化しかない20世紀の東京の郊外で育った私が常に追い求めてきたテーマです。言い方を変えると「見たこともないものへのノスタルジー」、憧憬。独裁者フランコへのバッシングで、戦後から1970年代までずっと経済封鎖されていたスペインは、まさにそんな情景の宝庫だったのです。

蒸気機関車、木造客車、木造電車、路面電車たちが、石造りの街や羊の群れる牧草地や畑や荒野や炭鉱をノロノロと進むというシーンが現実にある。それはタイムマシーンに乗って飛び込む憧憬の世界。まあ現代社会という現実からの逃避であったのは事実ですけど…

港の通りから一本入った石畳の街路を行くと市役所と市場があり、ユダヤ人街と飲み屋街へと続きます。どこの都市でもこういうところにおいしいものがあります。

Bodegaという看板を見つけたので入ってみました。造り酒屋直営の酒場です。混み合っているのですが若者がいません。店主もそうですが、お客さんたちの平均年齢はおそらく70歳を超えていそう。席に着くと飲物は甘い赤ワインのみ。つまみはピーナッツが山盛りで置かれます。

ワインは樽から注いですぐ持って来てくれますが、急須型のガラス容器に入っていて、グラスは置かれません。周囲のおじいさんたちは上手に急須からワインを吸っています。おばあさんたちの中にはコップを出してもらって注いで飲んでいる人も。

飾り気のない港町の酒場できっと50年以上毎日の習慣を続けているのでしょう。そしてそのまま時が止まってしまい、EU加盟後の世代は寄り付かない場所として残った、いわばシーラカンス的な存在。酒場はこの老人たちと共に早晩姿を消すのは間違いありません。その情景に出会えたことは悲しいながら旅の幸せ。間に合ってよかった!

2024年オーガニックボジョレーヌーヴォー到着