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ワインの話
オールドヴィンテージ

古いヴィンテージワイン‐自分の人生と重ね、ゆっくりと思い出を辿る楽しみ

ワインの話

熟成はワインをまろやかにする

カオールの先鋭的なビオディナミの生産者・ゴダンさんが後継者がなくて廃業されました。そこで、最後のストックを分けてもらおうとお願いしたところ、新しいヴィンテージはフランスのお客様が買い占めてしまったということで、最後に残っていたコト-・デュ・ケルシー2005年と、自家用に秘蔵してあったカオール1995年と1996年を少量譲っていただき、あまり大々的にならないように発売しました。

先日、普段からカオールを買われていたお客様が1995年をお求めになられたのですが、味がおかしいと返品されてきました。戻されたワインをテースティングしたところ、抜栓後日にちは経っていても、とても素直に熟成されたワインです。

カオールというと黒ワインの異名もあり、色が濃く味はタンニンがぎっしり詰まった重口ワインの印象があります。カオールを買われるお客様の多くがこの力強さを期待されるようです。しっかりとソースを作った肉料理にはよく合います。

しかし、このカオール1995年は20年以上の長期熟成によって、若いカオールの荒々しさをすっかり失い、重口ではなくまろやかな舌触りとなり、色も褐色に変わっていました。おそらくこのお客様にとっては“求める味の“カオールではなかったのでしょう。

熟成はぶどうのポテンシャル次第

ワインの一生は様々です。ボジョレーヌーヴォーのように収穫して2か月程で飲まれてしまうものもありますが、普通のワインは翌年か翌々年に飲まれるものが大半ですので、その飲み頃に合わせて味や香りがピークを迎えるように醸造されます。

そして長期熟成型ワインは各収穫年毎に異なるぶどうのポテンシャルに合わせて、何年後にどのレベルまで熟成させるかを考慮して醸造されます。同じ生産者同じ畑でも年によって熟成が辿る途は違います。そのため生産者が長期熟成ワインを売り出すタイミングも、古い順ではなく仕上がってきた順となり、年度の逆転現象も起きます。

ワインを寝かせるのはフランス男のロマン

フランスでは一戸建てには必ず大きな地下室があります。僕が住んでいたベルサイユ近郊の家の地下室は100m2以上あり、Alfa Romeo3台分の駐車スペース、ボイラー室、洗濯干し場、物置と2千本程収納できるワインセラーに区切られていました。せっせとブルゴーニュやボルドーの蔵元に足を運んでは買い求め、フランスを離れる時には、なんとかスペースの半分くらいまでのワインを貯めていました。

パリのアパルトマンでも、共同地下室内にカギのかかる数m2の個人用セラースペースがあり、ワインがぎっしり詰まっています。フランス人(特に男ども)は普段飲むワインの他に、どれだけのワインを所有しているかを競っていると感じ取れます。

熟成ワインに重ねる自分の人生

当時、ブルゴーニュの首都ディジョンの取引先のマスタードメーカーの社長宅に招かれ、誕生年を聞かれ、「1958年」と答えると、「悪い年だね~」なんて言いながらも地下室におりて、ジュヴェリーシャンベルタンの1958年をぶら下げてきてくれたりしたものです。(ちなみに1959年は素晴らしい当たり年で、彼のセラーにもぎっしり貯めこんでありました。)

古いヴィンテージのワインは、ボトルの中で育ちます。数十年後にどんなワインになっているのかは、開けてみてのお楽しみ、自分の人生を振り返るいい機会かもしれません。

熟成ワインの見た目-黴(カビ)

お店でワインを購入する際、ラベルやビンやキャップシールの状態がきれいであることは当たり前です。そのためマヴィではラベル汚損ワインはアウトレットとしてお安くします。フランス人は日本人程ラベルの見た目を気にしないので、生産者は見た目をあまり気にしてくれません。入港のたびに検品で結構な量がはじかれてしまい、アウトレットセール開催となってしまいます。

ボトル詰めしたワインを熟成する場合、ワインセラーの温度は10~18℃、湿度は90%以上の環境で寝かして置きます。コルク栓は金属の王冠やプラスティック栓のように密封している訳ではなく、ほんの僅か外界と通気しています。そのためワインは死なずにゆっくりと熟成してくれます。湿度が低いと、ワインはコルクを通して蒸発してしまいます。そのため90%以上という高い湿度が理想とされるのですが、この状態で長く置くと黴だらけとなってしまいます。

蔵元で出荷前に長期熟成する場合は、出荷が決まってからビンの黴や埃やクモの巣を丁寧に拭き取って、新たにラベルを貼ることができますので、きれいな状態なのですが、蒐集家のワインセラーではラベルが黴で劣化してしまうため、印刷されている文字は判別できなくなります。そこでボトルの首にプラスティック札を付けて識別したりします。もちろんコルク周りにも黴が付きます。ただ、これでは自慢のコレクションにならないからと、ラベルが読めるようにやや低めの湿度に設定するコレクターもいます。

熟成ワインの見た目-液面・汚れ

長期熟成ワインの液面が下がっているのもよくあることです。コルクを通して水分が蒸発するためです。またつい掃除をしたくなるのも人情。時には上の棚のワインを割ってしまい、ワインを被ってラベルが汚れることもあります。でもそれがそのワインの一生。

ワイン熟成と澱

皆さんも気付かれたかと思いますが、ランポンさんのオーガニックボジョレーヴィラージュヌーヴォーには大量の澱が入っています。油断して勢いよく注いでしまうと、グラスにも澱が移ります。

完全無濾過なので澱は出るのですが、新酒の段階でこれだけの量はちょっと異例。基本的に澱とは発酵の段階を過ぎた酵母の残滓、ランポンさんは酵母添加をする訳ではないので、畑で酵母もよく育ったということでしょうか。

ワインが熟成するにはこの澱が重要な役割を果たします。ミクロフィルターで澱を完全に除去したワインは、長く寝かしてもきれいに熟成してくれません。熟成を意識せずに飲んでしまう「ヌーヴォー」は、むしろフィルターをかけて、軽やかさを前面に出すことの方が得策と言われています。濾過してあれば、流通段階で雑に扱われても劣化を防げますし。

でもランポンさんは無濾過を選択しました。そもそもランポンさんはボジョレーの中でもレニエ・クリュ(特級)と呼ばれる長期熟成ワインだけを生産しています。機械を一切用いない醸造工程ではミクロフィルター濾過が行えないということもありますが、「ワインはビン内熟成によって完成する」ということを重視されているのです。

だからランポンさんのオーガニック ボジョレー ヴィラージュ ヌーヴォーは11月第3木曜日の解禁日を過ぎてから本領発揮、12月以降どんどん美味しくなっていきます。

古いヴィンテージワインを楽しむ際、澱との付き合い方はとても重要です。ワインボトルの底が盛り上がっているのは、澱を沈めるため。澱がグラスに入ってしまうと苦みエグみが出てしまい、せっかく数十年間の熟成を待ってまろやかになったワインが台無しです。

古いヴィンテージワインの抜栓は細心の注意を払って

  1. ワインは抜栓する前日までに涼しい場所に立てて置き、澱をボトルの底に降ろします。
  2. 早めに抜栓せずに、飲もうとする時に抜栓します。
  3. コルク部分を隠すようなキャプシールが付いているようなら、完全に剥いて、コルク部分が視認できるようにします。
  4. 古いワインのコルクはダメージが来ていることが多いので、ワインオープナーは簡易なものではなく、しっかりとしたソムリエナイフを使ってください。
  5. ソムリエナイフのスクリューをコルクの真ん中に少し傾けて挿し、その後はスクリューがコルクの芯にまっすぐ進むように回して、コルクを貫通する程度まで差し入れます。
  6. 引き抜くときは慎重に、固いようならば少し時計回りに回し加減でゆっくりと引き上げます。
  7. もしコルクがちぎれたときは、残ってしまったコルクに斜めからスクリューを差し込んで抜きます。
  8. ボトルの口はきれいな布かキッチンペーパーで拭ってきれいにします。
  9. 蝋燭を立てて火を灯し、その上でボトルネックの部分をかざして両手にデカンターとワインボトルを持ってワインをデカンターに注ぎます。くれぐれも空気の泡が立たないように慎重にゆっくりと注いでください。蝋燭で照らされたボトルネックを澱が通ろうとする瞬間に注ぐのをやめます。
  10. 残った澱の混じったワインは料理用に使ってください。ソースの材料や煮込みに入れたりできます。

オールドヴィンテージワインは飲み切ること

ランポンさんのボジョレーヴィラージュヌーヴォーは若いので、翌日も美味しく飲めますが、古いヴィンテージワインは抜栓したら長くは持ちません。もったいないから翌日まで持ち越そうということができませんから、人数を集めて楽しまれることをおすすめします。

飲むならおすすめは1990年代のヴィンテージ

ワインは飲んで楽しむもの。ならば1970年代から1990年代のまさに飲み頃となった、熟成期間からすると比較的手頃なヴィンテージが狙い目と思います。

長期熟成ワインはハムやチーズ等のつまみで飲まずに、ぜひいいお店に持ち込んで、美味しい料理と合わせてみてください。自分の人生と重ねてゆっくりと思い出を辿るのも楽しみです。

田村安

マヴィ代表
著書の「オーガニックワインの本」(春秋社刊)でグルマン・クックブック・アワード
日本書部門2004年ベストワインブック賞を受賞
フランス政府より農事功労章シュヴァリエ勲章受勲
ボルドーワイン騎士Connétablie de Guyenne

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