ビオディナミワインのパイオニア、ユージェン メイエーさん
ビオディナミ
ビオディナミとは、オーストリーの神学者で哲学者のルドルフ・シュタイナーの理論に基づく農法なのだが、これを取り入れたワイン造りは、近年ワイン界で一種の流行のようになっている感がある。
「ビオディナミワインはオーガニックワインよりも優れている」ともてはやす人もいるが、僕にはそうは思えない。
2012年にEUのオーガニックワイン醸造規定が制定され、添加物や高温殺菌が認められたため、大手ワインメーカーがオーガニックワインを工場で製造し、温度管理なしでも量販店で売れるようになった。これは、以前僕のコラム「オーガニックワイン生産の変化-田村安2016年4月講演より-」に書いているので、興味ある方は一読いただきたい。
そして市場に出回る“量産オーガニックワイン”と差別化するために、ビオディナミーを導入する風潮も一部には見られる。つまり自分のワインを売りやすくするためにビオディナミを名乗りたいということだ。
マヴィのビオディナミー生産者
マヴィでは39軒のオーガニック生産者の作品を販売している。その内5軒がビオディナミーで、デメター認証を受けている。
幸いというか、マヴィの5軒のビオディナミ生産者達は、この風潮とは隔絶している。もちろん同じ思いでビオディナミを始めた訳ではなく、それぞれに哲学を持った選択だ。
マヴィのビオディナミ生産者
生産者 | 国 | ビオディナミ開始年 |
---|---|---|
メイエー家 | フランス | 1969年 |
モレッティ家 | イタリア | 2003年 |
アシャール家 | フランス | 2005年 |
コティーノ家 | スペイン | 2019年 |
これらの生産者のビオディナミワインは、どれも秀逸な作品に仕上がっており、彼らのワイン造りに真摯に向き合う姿勢が窺い知れるが、残りのの34軒の素晴らしいオーガニック生産者達と比べて、どちらが上ということはない。考え方が違うだけのことで、マヴィの生産者は誰もが自分で考えて納得のいく方法で真摯にワイン造りをしている。
フランス・ビオディナミワインのパイオニア、ユージン メイエー
アルザスのユージン メイエーさんが1969年にビオディナミーを始めた当時、ドイツではすでに知られていた農法だったが、フランスではまだ誰も知らなかった。つまりメイエー家はフランスで最初にビオディナミを導入した生産者ということだ。
フランスでは1950~60年代に農薬の使用が普及し、ユージン メイエーさんも農協が持ってきた農薬をぶどう畑に撒いた。するとぶどうの樹だけでなく彼自身も農薬を吸ってしまい、何と目が見えなくなってしまった。当時同じ症状を発症するぶどう農家が多く、多くの人がそのまま視力を失ったとのことだが、幸いにも彼はドイツの医者で受診し、ホメオパシーの処方を受けて視力を回復した。
アルザスはライン川を挟んでドイツに接している。歴史的にはドイツに属していた時代が長く、アルザス語はフランス語ではなくドイツ語の方言だ。なのでメイエーさんはドイツ語に不自由しない。ホメオパシーで自身の体から毒素を抜いたように、ぶどう畑からも毒素を抜く方法を探す中でビオディナミーと出会ったという。ドイツで開催されるシュタイナー信奉者の集会にも参加し、ドイツ語の文献も漁り、ビオディナミーがホメオパシー理論で汚染された土壌から毒素を抜き、さらに土壌の力を活性化して、より力のある畑にできると確信するに至ったのだ。
以来50年以上ビオディナミーを続けるメイエー家のぶどう畑の土壌は素晴らしく、近隣のぶどうが育ちにくい年でも健康に生育する。そして、そのぶどうから造るワインは毎年例外なく美味しい。
メイエー家は創業1620年で500年間の歴史、50年間のビオディナミーを誇る。代替わりして息子のフランソワさんが当主となったが、先代のユージェンさんは90歳近くなっても健在、たい肥を作りトラクターで丘陵の畑を耕している。
メイエー家のワイン
田村安
マヴィ代表
著書の「オーガニックワインの本」(春秋社刊)でグルマン・クックブック・アワード
日本書部門2004年ベストワインブック賞を受賞
フランス政府より農事功労章シュヴァリエ勲章受勲
ボルドーワイン騎士Connétablie de Guyenne