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マヴィ史

マヴィ設立以来のこと1

マヴィ史

創立10周年を記念して、マヴィ店主が、マヴィ設立直前から、これから先の未来までを語る連載コラム。かなりユニークな道を歩んできた店主とマヴィ…。マヴィスタッフが読んでも面白いです。週1回のペースでアップしますので、続きもお楽しみに。

フランス駐在時代

1998年3月3日、私は日本初のオーガニックワイン専門インポーターであるマヴィを設立しました。当時、世の中にはバブル崩壊後の不景気嵐が吹き荒れていました。さらにワイン業界ではポリフェノール効果に沸いた赤ワインブームが終わるところで、需要と供給のバランスが崩れて供給過多、市場には世界中からかき集められた雑多なワインが売れずに店頭山積みされて値崩れ状態という、最悪の環境での起業でした。

食品メーカーの海外部門から、ヨーロッパ駐在員としてドイツとフランスで10年間海外生活をしておりましたので、国内の事情はまったく知らず、今から思えば無謀な旗上げとしかいいようがありません。しかし何も知らないというのは強いものです。まず会社設立のハウツー本を買ってきて、黄色マーカーと付箋を使いまくって手続きを勉強、行政書士なんていうものも知らず、とにかく役所に出向いて不明点を質問していく内にどうにかクリアして会社設立に漕ぎ着けました。

駐在員時代、私はしょうゆという調味料を、フランスを頂点とする世界の料理界で認めてもらうためのマーケティング活動をやっていました。頂点に認知されればおのずと下々に普及するだろうという考えでした。つまりミシュランガイドブックで3つ星を取る超一流レストランのシェフたちに、「私はしょうゆをこういうふうに使っています」と言ってもらうことがタスクだったのです。

1980年代初頭ジョエル・ロブションやアラン・サンドランスたちが相次いで来日して会席料理を持ち帰り、ヌーベルキュイジーヌ(新料理)というジャンルを築き、ミシュラン3つ星に輝いたのですが、彼らは本国では決して「しょうゆを使っています」とは言わなかったのです。あくまでも厨房の奥で「隠し味」として使っていたのです。いわば厨房の秘密です。

フランス料理は世界の頂点であるという自負心は強烈なものがあります。日本のしょうゆがフランス料理の基本味付けとなるというのは、断じて許されざることだったのでしょう。

まずは公的なお墨付きをもらうことです。日本と違いフランスではフランス料理は文化として位置付けられていて、プロの料理人やサービスマン、レストラン経営に関する教育は文部省が管轄して、公立の職業学校で行なわれています。ここにしょうゆが採用されれば政府公認でフランス料理の世界に入れます。

とは言っても右も左も分からないパリで、職業学校へのつても無かった訳ですから、しばらく手が出せずにいたのですが、たまたまパリのフランス料理上級学校(日本の高専に相当)ソムリエ・レストラン経営学教授のジェラール・ボアソー先生と知り合いになれたのです。

フランス中のソムリエが勉強する教科書を執筆している程の大教授で、またソムリエコンクールを日本に持ち込んだ人でもある、たびたび来日して日本中で仕事をしてきたという経歴の親日家。フランス料理の知識はもちろんプロ、そのうえ和食大好きで自分でもしょうゆをいろいろな使い方で試している、まさにうってつけの出会いでした。

彼の全面的な協力で職業学校生徒を対象に、しょうゆを使ったオリジナルレシピコンテストを仕掛けてみました。

1等賞はJALに頼んで日本招待、料亭での短期修行付です。審査員はボアソー先生の教授仲間にお願いして著名な先生がずらっと並び、伝手で現役のミシュラン星付きシェフや首相官邸のシェフまで加わってくれました。そのうえ偶然知り合ったフランス文部省の担当課長に話したところ、「生徒を日本に連れて行ってもらえるのは、その子の将来にとって素晴らしいチャンスになる」と喜んで、文部省準公認コンテストとしてくれたのです。

フランス全土の職業学校へ案内を出し、各校代表の優秀な生徒たちが競い合う場で入賞すればとても名誉なこと、それぞれ指導教官も付いて来ます。こうしてこのコンテストはフランス料理教育界での大イベントとなり、大成功。毎年繰り返す内に大物シェフたちもしょうゆを使っていることを人前でしゃべるようになり、フランス料理界はしょうゆを公認したのです。


オリジナルレシピコンテスト

私はこれを見届けて退職、帰国したのですが、ワインインポーターを始めるにあたり、最初に思ったのはボアソー教授のことです。誠実な人柄で知己が多く、ワインの特性に精通しています。ボアソー先生の確かな舌で最高のワインを選べば間違いないだろうと、お願いしてみました。彼は二つ返事で了承してくれ、すぐに二人でオーガニックワイン探しを始めました。

ところがボアソー先生にとってもオーガニックワイン界は情報が少なく、どこに生産者がいるのかということもはっきりわかりません。つまり一般のワインとは隔絶した流通だということです。

それでもちょっとずつ情報が入ってきて、会社設立を間近に控えた2月、ボアソー先生がオーガニックワイン生産者大会がモンペリエで開かれると知らせてくれ、即出掛けることにしました。当時、オーガニックワインに関する情報はほとんど出回っておらず、藁をもすがる気で参加を決めました。

(続く)

2024年オーガニックボジョレーヌーヴォー到着