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マヴィ史

日本経済の構造転換におけるオーガニック農業の役割 (私見)

マヴィ史

今日のデフレは、高度成長を前提とした日本の経済が成長の限界に達し、低成長経済への構造転換を余儀なくされたことにより生じたものであり、社会構造との歪みの修正が過去の延長線上には対策を見出せなくなったために、デフレスパイラルに入ってしまった。デフレは金融の病であると捉えられがちであるが、根本的には、消費者の心理が生み出す幻影といってもよい。つまり、消費が適切に行われないことに起因する。
消費者がなぜ適切な消費を行わないかというと、次の要因が考えられる。
1. 低生産性産業の崩壊と金融不良債権問題の不透明
2. いつでも誰にでも起こりうるリストラによる雇用不安
3. 中国製品に代表される低賃金国への生産シフトによる低価格化
4. 絶対的付加価値の減少による低賃金化

デフレからの脱出には、これらを解決し、消費者の心理を回復することが必要である。その解決策のひとつが地方経済の活性化である。消費者心理と地方経済の活性化のために、オーガニック農業の推進を提案したい。
わが国の農業自給率は極めて低く、これを高めることが農業政策の課題となっている。しかしながら、アメリカの開放圧力と大手流通による中国での農業開発輸入という、今日の国際状況はこの改善を極めて難しいものにしている。品質に大きな差が無ければ、消費者は安い物を購入する。さらに、BSE問題から鶏肉詐称問題など、国産農産物の品質に関する信用は失墜した。このまま手をこまねいていては、日本の農業はさらに衰退し、自給率の低下を見るのは必然である。信用回復の切り札はオーガニック農業である。
ヨーロッパで行われているオーガニック農業は、EU政府の環境政策と農業政策の柱の1つとして位置付けられている。農業分野でのEUの脅威はアメリカと発展途上国である。
比較的小規模で労働賃金の高いEUの農業者にとって、国際競争に直面することは、存続の危機といえる。そのため、EUは農業を保護する政策を取ってきた。しかしながら、WTOは、これまでの農業補助政策の撤廃を迫ってきた。そこで、EUは環境政策を前面に打ち出し、そのための保護政策を進めるという立場を打ち出した。
これは、慣行農業は化学肥料や農薬の使用により、土壌、水、大気の汚染の原因となっているとし、環境負荷の低いオーガニック農業への転換とその発展のために補助を行うというものである。

オーガニック農業は慣行農業と次の点で違っている。
1. 植物に直接栄養を与えない。
2. 危険な化学物質(除草剤や農薬など)を用いない。
3. 遺伝子操作技術を用いない。

1. このため、土地固有の生産性を超えての生産はできない。
2. 労働を多く必要とする。
3. 輸送・保管は厳密な管理を必要とする。

これらは生産・物流コストの著しい上昇を意味する。そして、消費者がオーガニック生産物を購入するようになれば、生産・流通における大きな付加価値が生まれることになる。重要なことは、このオーガニック生産による付加価値をアメリカや中国に持っていかれないようにすることである。この2つは大きなかかわりを持っている。つまり、消費者がオーガニック生産物を購入する動機を健全に創りださねば達成できないということである。そこで、環境政策ということが重要性を帯びてくる。
今日、都市に住む消費者にとって、農業はすでに過去の産業と思われている。しかし、田舎の自然景観や水源地の保護などは、自分自身に関わる身近な問題として認識され得る。耕地のオーガニック化を環境政策の柱として位置付けるということは、これら都会の消費者を取り込むことに他ならない。
一方、残念ながら、農業は産業として、税金による支援なくして成り立たない。都会の消費者=他の産業の担い手からの理解を得ずば、崩壊してしまう産業である。
そこで、環境政策を前面に打ち出すことで、都会の消費者(税金の負担者)を味方につけるのである。
都会の住民には今後も住み続けられる社会を実現するために、「土壌と水を汚染から守る」というライフスタイルとしてのオーガニックを提唱し、農地のオーガニック化に貢献するために、自らの負担(高い価格の支払いと税金)を理解してもらうこととなる。そのため、田園維持政策という側面を強調することである。そして、同時に前述の2項目の達成を目指す。この意識を認識した消費者は値段が安いからといって、安易にアメリカ産や中国産に飛びつくことはないだろう。これらの消費者は農産物のトレーサビリティーに敏感になっている。したがって、減農薬等では納得しないことは明白である。
もちろん、意識を持たない消費者は、安価な農産物の購入を続けると思われるが、高い付加価値を付けられないこの流通は、大型流通以外で成立することが困難になっていくことと思われる。
今日の日本の農業者の状況を見ると、オーガニック化は困難なように見える。農業人口の2/3は65歳以上である。(体力と柔軟性に欠けている。)専業農家は20%に過ぎない。(専門的農業経営技術に欠けている。)農業用地には政策的休耕地が多く、廃業による棄耕作地も多い。オーガニック農業の経験をもつ農業者はほとんど皆無である。
この現状はヨーロッパと較べると、目を覆いたくなるような惨状といえる。
ところが、今日の経済状況を考えると、幸いであるといえる。
なぜならば、今日の農業は産業としてほとんど「無」なのである。
デフレの克服にはこの「無」の産業の存在は極めて大きな意味を持つ。
高付加価値化できない産業を高付加価値型の産業に置き換えることが構造改革であるが、農業分野もまた、構造改革を行わなければならない。
構造改革を行う上での障害は、ついていけない層の失業である。しかし、農業に関して言えば、そのほとんどが年金受給者なのである。従って、失業の発生を問題視する必要性が極めて薄い。また、休耕作地・棄耕作地の存在は土地生産性の悪化を吸収しうる。(実際、EUの田園農業政策は、生産性を低め、市場における競争の緩和をも目的の1つとしている。)
ここで必要な施策は、下記の通りである。

1.農地のオーガニック化を環境政策の柱のひとつとして国策にする。
(ドイツ政府は5年間で耕地10%のオーガニック化を公約し、10年で20%とすることをめざしている。
オーストリアはすでに10%を達成し、将来的に50%をめざしている。)

2.消費者への地方農業政策支援キャンペーンを展開する。
(ライフスタイルとしてのオーガニックを普及する。)

3.オーガニック農業技術研究を拡充し、地域特性を踏まえたオーガニック農業技術者・技能者・経営者を総合的に養成する公的機関とする。

4.65歳以上の農業者の引退を促す。(年金・奨励金・税金の優遇策など)
(意欲と実力のある人は指導員となってもらう)

5.赤字農協の清算を促し、一方、農家の借金を無くす方向で対策を講じる。
(農協の役割はすでに変ってきていることを考慮する。=金融面の見直し)

6.農地を証券化し、農地の流動性を高める。

7.農業法人化を進める。

8.農業株式・証券市場を創設し、資金の調達と都会人の関与の場を作る。

9.構造改革で生じる他産業よりの失職者を労働力として投入する。

10.除草、収穫などの季節労働市場を作る。(NPOなども活用する)

11.JAS有機認証制度を改正し、認証団体を減らし、透明性を持つ公的監査機関(政府委員・消費者委員・国際委員を含む)を設け、更なる信用創出に足るものとする。(民間ではなく、地方自治体などの公的機関が無料で認証する方が望ましい。農協が書類作成などの指導、補助を行う。)

12.日本の実情に合わせ、米作り等が現実的にできるよう、使用できる農薬の種類を時限的に緩和する。

13.オーガニック農産物の公設市場を開設し、商店や飲食店が自由に調達可能として売り先確保と共に商店街活性とも連携する。

14.大手流通には日本の耕地オーガニック化に協力する姿勢を要求する。
(ヨーロッパの大手流通はEUのオーガニック化に協力する姿勢をとっている。)

15.アメリカと発展途上国という、共通の脅威を有するEUと日本の農業政策の連帯をはかり、これに対処する。

農業への資本注入は、地方経済を活性化し、地方金融機関の自立に貢献し、日本経済全体の浮揚効果を発揮する。優良な消費者に向けたオーガニック生産物により、流通は付加価値を再び生み出すようになるだろう。こうして、オーガニック農業の推進には、地方経済の活力を高める効果が大いに期待される。また、これまで、建設業界が失職者を多く受け入れてきたが、現在は公共工事が減り、厳しくなってきている。そこで、農業を失職者の受け皿とすることにより、経済構造改革を実行に寄与しうる。当然だが、本来の目的である、水と土壌の浄化が達成され、国土の保全に貢献し、将来への負の遺産を減らすことになる。
低成長経済の下でEUがこれまで行ってきたオーガニック農業政策は、日本にとっても切り札になりうるものであり、現状が難しく見えるというだけで、ないがしろにしてはならない。いまこそ、英知を集めて断行すべきである。

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