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ワインの話

古代製法が生きていた!本来のシェリーは酒精強化ワインではなかった

ゴメスさんとの出会い

2003年1月、スペインのアンダルシア州政府オーガニック農業委員会より招聘され、セビリアで日本のオーガニック市場の可能性について講演をした。せっかく来たのだからとオーガニック農業委員長のカセロさんがあちこちのオーガニック生産者に連れて行ってくれて、ワイン生産者も数軒訪問したが、どこもタンクがずらりと並ぶ近代的な大工場ばかり。EUのオーガニック助成金を注ぎ込み、大規模流通を狙う企業や組合が牛耳る世界で、それはそれで興味深かったが、ワインのレベルは大したことなく、「まあこんなものか」と感じた。

その翌日、カセロさんは「かなり遠いので1日がかりになるけど、あなたの気に入りそうな変わった生産者がいるから」と言われて、はるばるコルドバ県の水源のダム湖のもっと先の山奥、ビリャビシオサ村まで連れて行ってくれた。そこで紹介されたのがカセロさんの親友ゴメスさんだ。

シェリー酒の醸造所とぶどう畑には羊の群れ
シェリー酒の醸造所とぶどう畑には羊の群れ

羊の群れに囲まれた醸造所の壁には、アンダルシア州のオーガニックロゴマークとNo.000001の文字。そう、アンダルシア州で最初にオーガニック認証を受けた生産者なのだ。そしてお決まりのインタビュー「どうしてオーガニックを始めたのか?」と聞くと、「昔からの農業をそのまま続けて来ただけで、化学肥料も農薬も一度も使ったことがない。」とのこと。醸造所では昔ながらの特徴的なお尻の尖った壺のような発酵タンクが現役で、積みあげた樽の中で発酵と熟成を行うソレラ製法。10年樽熟のドラド セコは黄金色に輝き、芳醇で文句なく美味い。即決でお取引をお願いした。

古代製法シェリー酒の発酵タンク
古代製法シェリー酒の発酵タンク

糖度が違う、山岳地帯のぶどう

後年再訪し、ゴメス家に泊めてもらい、じっくりとお話を聞いた際に、昔から疑問に思っていたことを質問してみた。

「甘いワインを造るために、発酵の途中で酒精を添加して糖分を残して発酵を止めるという工程は理解できるのだが、ドライシェリーの場合はどの工程でアルコールを添加するのか?」と。すると「アルコール添加はしないよ」という予想もしない返事!そして「高い山の傾斜地畑のぶどうは糖分が非常に高いし、ソレラ製法では樽の木を通して水分が抜けるのでどんどんアルコール度数が上がるから、アルコール添加の必要はない」と言い切られた。

いや、それどころではなく、実はゴメス家では甘口にもアル添せずに造ってしまう。ワイン界の常識から離れた桃源郷は実在する。

ビリャビシオサ村の中心地のカフェ
ビリャビシオサ村の中心地のカフェ

じゃあ、なぜシェリー酒は酒精強化ワインなのだろう???

その答えは、ヴィリャヴィシオサ村の中心の村役場と教会がある広場に面したカフェでもらった。

がらんとした、老人しかいないカフェ、昔はシェリー製造のメッカ、へレス デ ラ フロンテーラの町から来たワインの仲買人で賑わい、ここで地元のワイン生産者と取引をしたのだと。仲買人たちはそのワインをシェリーメーカーに売り、他のワインとブレンドされた。低地のワイン産地ではぶどうの糖度が上がらないので山奥のアルコール度数の高いワインは重宝だったのだが、イギリス人たちが主導してアルコール添加を正当化したことで、山奥のアルコール度の高いワインの需要がなくなったという。

シェリー委員会のHPより

シェリー委員会のホームページによると、シェリーに使用するぶどうのボーメ度は少なくとも10.5 は必要だと書かれている。ボーメ度とは発酵前のぶどう果汁の濃度や重さを表し、そのぶどう果汁に含まれる糖分が完全にアルコールになった時に得られるアルコール度数とほぼ等しく、つまりボーメ10.5度のぶどう果汁は最大で10.5%のアルコール度数ということになるが、実際は残糖分もあるのでアルコール度は10%に達しない程度。ぶどう栽培北限の北フランスやドイツではあるまいし、陽光の強いスペインでは信じがたいレベルの低さだ。製品のアルコール度数は16~17%なので、5割以上アル添してコストを落としている計算になる。

日本酒業界でアル添を本醸造と呼び変えて、純米酒を駆逐したように、「悪貨は良貨を駆逐する」というグレシャムの法則。どれだけたくさんの良心的なモノが消えてしまったか!

1910年8月24日に詰めたシェリー樽の銘板
1910年8月24日に詰めたシェリー樽の銘板

でもここには残っていたのだ。古代製法が生きていた!

本来のシェリーは酒精強化ワインではなかったということをぜひ知って欲しい。

敢えて言う。ゴメスさんのドラドセコにはアル添シェリーに必ず感じる臭さがないのだ。だから飲み飽きない。そして何より良質な純米酒と同じで悪酔いはしない。

「これを嗅いでごらんなさい」と、ゴメスさんはお祖父様の残した最後の100年物の樽から注いでくれた。何も足さない本物のシェリーとはこんなにも薫るのかという驚きと至福の瞬間だった。

田村安

マヴィ代表
著書の「オーガニックワインの本」(春秋社刊)でグルマン・クックブック・アワード
日本書部門2004年ベストワインブック賞を受賞
フランス政府より農事功労章シュヴァリエ勲章受勲
ボルドーワイン騎士Connétablie de Guyenne

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