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Le Gout Du Vin-塩澤悠ブログ

ブラインドテイスティングで見えたもの

日本から遠く離れたフランスの南西地方にあるボルドー地方。

そのボルドー地方ではワイン造りは大変盛んで、シャトーと呼ばれるワイナリーが数多く存在しており、私はそのフランス、ボルドーにあるボルドー第2大学醸造学部DUADと呼ばれるコースに在籍して、ワイン醸造家の知識を持ってワインを試飲し、評価をできるようになる授業や訓練を受けています。

私がその日受けた授業は、今まで受けた授業の中でもとても深く印象に残っているものでした。

外的要因、つまり周りの影響がどうワインの味に影響を与えるのかというものでした

私は今までにボルドー、そしてブルゴーニュのボーヌと、2大ワイン産地にあるソムリエ養成所で訓練を受け、たくさん試飲をしてきましたし、イタリアのフィレンツェでもワインショップで働きながらトスカーナ地方のワインを始めイタリア全土のワインも扱ってきました。それなりにワインを嗜む方だと自負しているので、試飲の時には普段以上に考えます。

しかし、ここDUADではグラスに注がれるのは化学物質が水で薄められた“液体”だったり、最初から何も言われず赤ワインや白ワイン(あるときは無理に赤く着色された白ワインまで)を注がれます。色 、味 、香りだけでワインの評価を下し、時には年代や産地、使われた葡萄の品種や銘柄まで当てる必要もでてきます。

これが私たちの中でいう”ブラインドテイスティング”です。

その日の授業では8種類のワインを試飲しました。講師は次々にワインを回しながら、試飲室で音、温度、風などと様々な外的要因をつくり、それがどうワインの味に影響を与えるか実感させてくれました。1本1本「それはワインかな」といった質問から始まり、「自分だったら買うか、ならばいくらか」と生徒への問いかけは止まりません。私も今まで飲んできた、記憶に残っているワインと比較しながら考えておりました。

次々とワインを試飲していた時、それは最後のワインで起きました。8種類目のワインにかかった時、ほとんどの人が「このワイン大丈夫か、余韻が短い、自分なら買わない」と次々にそのワインに対して不満をあげていました。私も、これはピークを過ぎたワインで本来の姿が見えないと思いました。その様子をみた講師が自慢げに驚くべきことを言い出しました。

「ボルドーには有名な5大シャトーというものがあり、最後のワインがそのうちの一本であり、1984年物」だと。

値段で言えば1本6万円以上にもなるものだったというのです。

一つだけ言い訳をさせてもらうと、確かに1984年は他の年に比べて劣りがある年だと講師は仰っていました。

しかし、問題はそこではありません。それを知ってから再び口にすると“味が違う”のです。

するとどうか、生徒達が次々と口を揃えたように「このワインからは上品な香りがする、ほのかな甘み、酸味、苦みのバランスがとれており何とも繊細だ」と言った声まで聞こえてくるのです。

その時私は思いました。人間とは何ともこう簡単に“ラベル”というものに騙されるのかと。

授業中に配られたデータによると、
1.個人の試飲の効果
2.個人の試飲とラベルを見ること
3.ラベルだけを見る
という中で、2番と3番が1番に比べて10倍以上売り上げを作ることができるとのこと。

加えて、同じワインを2枚の違うラベル(1枚目は見るからに高そうな、2枚目は非常にシンプルな)が貼られたボトルに入れてテイスティングを行ったところ、1本目の高そうなワインに対する評価は2本目のシンプルなボトルに比べて評価はとても高かったというのです。

私は“味”というものは、口にした本人が満足し、美味しく感じることが大切だと思っていましたが、いとも簡単に“ラベル”という“先入観”でこうも変えられてしまうことに驚きを隠せざるを得ませんでした。

同時に、この経験から私はある結論にたどり着きました。

有名な作り手でなくとも、高いお金を出さずとも、手に届く範囲で満足のいくワインを見つけることは可能だし、実際に数多く存在します。 ラベルや先入観にとらわれず、正しい味覚基準を積み上げ、「自分が美味しいワイン」を今後も見つけていきたいと強く感じ入った授業でした。

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