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今日も美味しく、楽しく、気持ちよく――未来につながる日々の暮らし

【第63回】阿波踊りが戻ってきた夏

徳島・神山町からお届けする、美味しく、楽しく、気持ちよい「未来につながる日々の暮らし」

徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食の話など…定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回は夏の終わりに開催された神山でのお祭りに参加しながら考えたことを。日常がひたすら続く中、人は節目節目にお祭りを催しますが、そのハレとケの維持の仕方も時代の流れで変わってゆくようです。残すべきものがいつの間にか無くなっていた…ということがないように今できることは何でしょうか。[月2回更新]

■暮らしに根付くお祭り

今年の夏は、子供の頃の夏の記憶を思い出すような夕立が毎日のようにありました。

子供の頃は、夏には割と頻繁に雹(ひょう)も降っていた思い出があるのに、大人になってからは「雹」の言葉も忘れてしまうほど身近ではなくなってしまいました。マヴィで働いてワイン農家さんを訪ねるようになって、ずいぶん久しぶりに雹の被害の話を聞いたり、実際に体験したりもしたなあと夏になるたび思い出しますが、地上に近いところの気温が高くなり過ぎて、氷のまま地上に届くことがなくなってしまった…というのがその理由なのでしょうね。

天候はこんな風に、長い目で見ても変わってきているし、去年と今年、その前と振り返ってみた時にも似通った年など全然なくて、そんな中でも農作物を変わらず作り続けてくださっている農家の方々のご苦労は、想像を絶するものなのだろうと思います。

焼山寺境内の様子

久しぶりに阿波踊りと、8月30日の焼山寺のお籠り法要(法要とともに阿波踊りの奉納と打ち上げ花火があります。これが終わると「ああ、今年も夏が終わった…」と感じる行事)が無事執り行われた夏が終わりを告げ、季節は秋への扉を開きつつあります。

阿波踊りは「踊る阿呆にみる阿呆、同じ阿呆なら踊りゃなそんそん」というフレーズで有名ですが、今年ほど踊る阿呆も見る阿呆も歓喜に満ちていた年はなかったんじゃないでしょうか。ウイルスの引き起こす病は残念ながら勢いを増してもいたので、踊る連のメンバーも通常よりは少なめだったり、十分と言えるほど練習はできなかったかもしれないけれど、神山町だけを見ても明らかに町中がそわそわと、例年の町内20カ所ほどを順々に巡ってくる桜花連の到来を待ち侘びる人たちの熱量は相当なものだったと思います。まして、徳島市内の活気はきっとものすごかったことでしょう。神山町の知人家族も4日間のお祭りのうち、3日間も市内に繰り出した(車で片道40分くらいかかるのに!)と言っていたほど。

夏の一風景、雲に煙る神山

夏のお祭りと言えば、コンチキチンの祇園祭一択だった私も、この夏で徳島に暮らし始めて10年目。6月の終わりに知人を迎えに行った空港の大スクリーンに流れる阿波踊りの映像を見て、なんだか懐かしくて、開催のなかった2年間を思うと胸に迫るものがあって自分でもびっくり。今年は実施されるかなあ、されますようにと思わず祈ってしまったくらい、あの2拍子の鉦と笛と太鼓の阿波踊りの音も祇園祭と同じかそれ以上とも思えるほど、自分にとってはそれがないと夏ではないような、暮らしの中になくてはならないものになりました。

■人が居てこその地域文化

生活に根付いているものだからなのか、友人も多数連で踊ったり、演奏したりしているからなのか、こちらでの暮らしは都市に暮らしていた時よりもハレとケのコントラストがあるからなのか、きっとそのどれも影響しているのでしょうが、阿波踊りは心身を揺さぶる感覚があります。素通りできない、無視できない感じ。みなさんにもそれぞれ、お住まいの地域や故郷の、盆踊りや夏祭り、行事がありますよね。阿波踊りと同じように各地の祭りも今年は解禁された印象なので、私と同じような境地になられた方もきっと大勢おられるのではないでしょうか。

無形文化財のバトンタッチも難しい問題です

過疎地域では、これまでずっとやってきたことも、ある時を境に突然できなくなることが往々にしてあります。集落の高齢化やそれに伴う人口の減少によって、諦めざるを得なくなるのです。全く年齢を感じさせないくらい元気だなあと思っていた人が、わずかの間に驚くほど動けなくなってしまうことも何度も目にしてきました。神山町でもこれまでは一つの集落で費用負担もしながらやってきたお祭りや打ち上げ花火も、集落だけでは難しいので可能な方はご協力くださいというメッセージが流れたりもしています。

文化や伝統は、時とともに変化したり、状況や必要に応じて廃れたり新しく生まれたりして歴史を積み重ねてきたものではありますが、技術や無形文化財のような、人々が伝承してきたものが失われていくのを目の当たりにしたり、その予兆を感じるのはなんとも言えない気持ちになります。せめてもの思いで、その様子を黙々と自らのプロジェクトとして映像に収めてアーカイブしたり、必要な場面で披露する取り組みをしている人もいて、その行動にとても感謝するとともに自分もできることを探ってみようと思います。

幸いなことに、神山の桜花連にはまだまだ大きな希望があります。 今年踊った最年少は5歳の女の子。小学生の踊り手もたくさんいて、2日間ヘトヘトになりながらも踊り続けている姿は本当に偉かった。来年の夏もまた、彼女ら、彼らの元気な姿を目にできますように。世界が健やかで平和でありますように。

8月最後の日、大きな虹がかかっていました。

(2022.09.07)

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