【第60回】すべては自分の中に
徳島・神山町からお届けする、美味しく、楽しく、気持ちよい「未来につながる日々の暮らし」
徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食の話など…定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回は連載を開始して60回目!約二年半前からスタートしたこの連載ですが、なんのなんの、先輩方を見ればまだまだ(笑) 何かをやること、またその何かをみつけること、そしてそのすすめ方、自分の中に必ずあるその芽を大事に育てられているでしょうか。美味しい話題、スプマンテを持参したホームパーティの様子も。気軽に開けて、どんな料理も楽しめます♪[月2回更新]
■あるアトリエを訪問し、再び実感したこと
梅雨が明け、前回の締めくくりに「2022年夏の始まりです」と書いたというのに、また雨模様の神山町です。行ったり来たりの感はありますが、あのまま降らなかったら水不足が心配だったのでありがたいことですね。もう7月も半ばを過ぎるので、徐々に本格的に夏に向かっていくでしょう。
あんなに小さかったひよこたちも先日親離れして、今では8羽が文字通り肩を寄せ合って、止まり木の上におしくらまんじゅうのようにぎゅうぎゅうにくっついて眠っています。
この連載もおかげさまで今回で60回目になりました。コロナウイルスが世界に蔓延しそうな予兆があって、マヴィ赤坂店で予定していたイベントがキャンセルになり、こちらでの暮らしをコラムにするのはどうだろうという提案をもらったことがきっかけでした。それから瞬く間に2年以上の月日が流れ、ようやくコロナのことを気にせずに暮らせる日常が戻ってきたなと思っていたら、また第7波が…というニュース。翻弄されなくなる日が早く訪れることを願うばかりです。
もう60回かあ、と自分なりに感慨深かったのですが、先日お会いした彫刻や木工、焼物アーティストの島利喜太(しまりきた)さんは現在91歳で、今も絶賛現役で活躍中。60回なんて、やったうちにも入らないなと思うほどにパワフルに活動されている方です。
島さんと面識がある友人とともに数名でアトリエを訪れ、ただ残念ながらご本人はおられなかったので、友人のわかる範囲で島さんの手がけた建物とアトリエをざっと見せてもらい、まさに帰ろうと車に向かっていました。そこでふと視線を上げると、自転車を停めようとしている島さんらしき人の姿が。あと1分遅くても早くても出会えなかったであろうタイミングでご挨拶ができたばかりか、島さんご本人に解説いただき、いろんなお話を伺いながら作品を見せてもらうという恩恵に預かることができました。
島さんは徳島県の南東に位置する阿南市にある「大菩薩峠」という喫茶店を、構想から始まり、建物全体の重要な資材の1つであるレンガを1つ1つ焼くところからスタートして、今も次々と湧き出るアイデアで創り上げてきた人です(喫茶店の現オーナーは息子さん)。
本来持っておられた構想を聞いてさらにびっくり。島さんのお母様と奥様に反対されてここまでに止めたんだそうです。それでも十分な建物の展開。そしてアトリエには椅子やテーブル、その元になるもの、棚、そして無数の資材。「秘書が3〜4人おって、わしのアイデアを書き留めてくれたら、こんな(両手を広げて)ブックがいくつもできるよ。」と目をキラキラさせておっしゃり、ただその後小声で「でも時間が足りんなあ。」と呟かれて、そこは本当に残念そうでした。その日も歌人であるご友人からの依頼で、その方の短歌を彫るのだとおっしゃっていました。2015年に手がけられた、全国47都道府県の形を椅子の背もたれにして制作された47個の椅子の作品集をお土産にくださり(現物はアトリエにあるので見せてもらいました)、あっという間の1時間が過ぎ去っていったのでした。
私たちをアトリエに案内してくれた友人は、お子さんたちを連れて島さんに会ったことがあるらしく、その時島さんが小学生のお子さんに話しかけたという言葉がずっと頭に残っています。
「学校なんかいかんでもええんやで。全部自分の中にあるけんな。」
子どもに対してなんてこというの!とびっくりされた方もあるかもしれません。でもフランスの山の家に通っていた頃から、
「教育は知識を詰め込むことではなくて、一人一人がやりたいことをきちんとやれるようになるために、それを実現するのに必要な知恵を身につけられるようにすることなんじゃないかな。」と感じていた私は、島さんの言葉でさらに腑に落ちたのです。
自分の中にあるものを表に出せる力。いくつもの自分の中にあることを総合させて形にしていく力。それを引き出しやすくしたり、誰もが自然に自分の中にあるものを出していい場をつくっていくのが教育の本当の目的なんじゃないかと。
私たちの住む神山町が好きだから、また遊びに行くねと言ってくださった島さんとの再会が楽しみです。
■気軽に乾杯!スプマンテは頼れるスパークリングワイン。
その数日後、いつもの仲間の一人のバースデーがあり、彼女の大好きなスプマンテを持っていつもの持ち寄りパーティに。スプマンテは気楽に飲めて、本当に難しいことを考えずともどんなお料理にも寄り添ってくれる強い味方です。魚介のフリット、アサリのワイン蒸し、カルパッチョ、カナッペ、サラダ、マリネ、コロッケ、チーズ、ローストしたお肉類、本当になんでも!
とびきり暑かったその日、キリッと冷えたこのスプマンテはみんなの喉にするすると落ちていきました。メインとデザートは別の友人たちが用意することを聞いていた私は2種類のサラダを用意。
インゲンと白インゲン豆、たまねぎにパセリとセロリを刻んで、米油とバルサミコと塩でさっと和えたもの、もう1つは夏野菜がおいしくなってきたので、きゅうり、トマト、パプリカにギリシャのチーズであるフェタとオリーブを添えてギリシャ風に。味付けはすだち果汁(もちろんレモン汁でOK)、すりおろしたニンニク、オリーブオイルと塩です。
今が旬のイサキとキジハタというお魚のお刺身にも、オーブンで焼いて塩とオリーブオイルで食べる野菜にも、お魚と野菜のパスタにも本当にどれを合わせても美味しかった。夏に常備されていたら止まらなくなりそうな嬉しい1本。誰と飲んでも何と飲んでも間違いなく幸せなひと時を味わえます。
(2022.07.20)
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