【第56回】未来は想像の範囲を超えて
徳島・神山町からお届けする、美味しく、楽しく、気持ちよい「未来につながる日々の暮らし」
徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食のことなど…定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回はとかく私たちが陥りがちな想像して何かを選択する際の効率、妥当性を考えてみました。自分だけの考えや想像の範囲内で出る答えって限界があるのかもしれません。その先に面白いものが見いだせるとしたら…ちょっとワクワクしますね。美味しい話題、シュークルートとイタリア、マルケ州の赤ワイン、サンジョヴェーゼのご紹介も。[月2回更新]
■想像通りのことって意外と少ない?!
5月も半ばだというのにびっくりするくらい寒い日もあれば、例年並みの暑さになる日もあって、方々から「体がついてくのが大変!」という声を耳にします。季節の変わり目はそもそも体調を崩す人も多いので無理をせず臨機応変に対応していきたいですね。農園ではたまねぎとニンニクがそろそろ収穫を始められそうかな?と思い、試しに掘ってみました。鶏たちも気になるようで寄ってきましたよ。
前々回でご紹介した、「体の癖を知る」のトレーナーの方に、「そういえばコラムでこんな風に紹介したんですよ」ということをお伝えするために少しやり取りをしました。その中で、私はこんなことを書いていました。
「もう一生あの痛さを背負って生きていかんとあかんのや、と思ってましたから。
去年の今頃の私は今の私がいるなんて想像もできなかったんです。」
これを書いて、自分の目で文字を見て、改めて気づきました。確かに今こんな風になっているなんて、あの頃の私には想像もできなかった。そしてこの連載は「未来につながる日々の暮らし」について書いており、それは絶対にそうなんだけれど、よいことやあまり手放しで喜べないようなことでも、「想像もしていなかった今」がある…ということ、たくさんありますよね。というよりは、想像通りのことなんて本当にわずかな気がします。
わかりやすいところで言えば、誰でも携帯を持つのが当たり前で、電話ボックスがすっかりない世界になっているとか。世界のどこにいても電波さえあれば誰とでも繋がることも不可能ではないとか。一度もリアルで会ったことがない人たちと一緒に働きながら会社が運営されていくとか。
個人的な話で言えば、フランスに行く前の私は自分がワインの会社で働くことになろうなんて思ってもみなかったし、農場民宿のようなところで住み込みで働きたい、と思って旅立った割には、そもそも土に触れることがこんなに楽しいとか気持ちいいとか思う自分がいるとも思っていなかった。今暮らしている神山で生活をすることももちろん全く考えていなかったし、神山で暮らす中でも、暮らし方もどんどん変わってきています。数え上げればキリがないくらい、全く想像もしなかったところにいる自分に驚きます(物理的にも精神的にも)。
そう思うと、何かをやったり選んだりする際に頭に浮かんでくる「不安」とかって、本当に意味のないことかもしれませんね。私自身は決めて選んでしまった後は、それが物でもやることでも後悔なく、選んだ方を満喫できるタイプですが、行動に移すまでは結構迷います。すぐに決められるくらい選択肢が簡単な場合はいいんですが、こっちもいい、でもあっちもいいとか、双方メリットもデメリットもある中で選ばないといけない時にはあれこれ想像してしまって、なかなか決められません。
でもこれまでのことを思うと世の中的にも、自分的にも想像なんかできもしなかった未来が訪れるのだから、あまり迷ったり悩んだりすることに時間をかけるよりも、少しでも多くの体験をしたり、人と会ったり、場数を踏んだ方がずっと面白い未来がやってきそう。そんな風に思いました。もちろん数が増えれば「ああ、失敗したー」って思うことも当然増えるでしょうが、失敗だと思ったことさえもどんな未来に繋がるかもしれず、私のように決めるのに時間がかかる人は時間をかけずに決めてみるのもよいのかなと思います。
逆にいつも即決しちゃう人は、決めない時間を持ってみると、また違う世界が見えてくるかもしれませんね。
■ザワークラウトが決め手!イタリア、マルケ州の赤ワインと。
サンジョヴェーゼという品種は、イタリアワインではお馴染みですがマヴィでは比較的最近の品種。
香りがよく上品だけど気楽に飲める感じが私も好きです。今回はポレジオというワイナリー近くの山の名前がついたこのワインに合わせて何を作ろうかなと思った時に、ちょうどいい状態になりつつあった自家製のザワークラウトを思い出しました。
自分たちで作っていたキャベツが、ゆっくりと育った小ぶりな物ではあったのですが大量にできて、このままだと全部花が咲いちゃう!ということで慌ててザワークラウトにしたんです。そこでちょっと手間はかかるけど自分で豚肉を燻製にして、とても美味しいソーセージも手に入ったので、自家製ザワークラウトのシュークルートにしてこのワインと合わせてみました。
ザワークラウトの酸味がこのワインの酸味と調和する一方で、燻製やソーセージと好相性なコクも備えています。シュークルートは、市販のザワークラウト、厚手のベーコンや豚の塊肉、美味しいソーセージにじゃがいもやたまねぎを一緒に煮込むだけなので、材料さえ揃えれば全く難しくありません。アルザスやドイツの白はもちろんのこと、酸味も感じられる赤であれば美味しく味わえるのでぜひ試してみてくださいね。
(2022.05.25)