【第46回】満たされる体験
徳島・神山町からお届けする、美味しく、楽しく、気持ちよい「未来につながる日々の暮らし」
徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食のことなど…定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回は最近体験した心も体も満たされた話。価値観は人それぞれと言えども、誰かを気遣い、誰かに気遣われながら生活していることに変わりはありません。宿泊や飲食を通じて更に実感した事をまとめて頂きました。もちろんお腹を沢山満たす、シチリアロゼとの食卓の話も♪[月2回更新]
■偶然の出会いで体験した、温かなおもてなし
だいぶ冷え込みが厳しくなってきました。田畑も霜が降りて、夏にはあれだけ悩まされていた草もずいぶん枯れて、いよいよ冬本番の装いになってきました。そんな中、キャベツや白菜は元気に育っていて、来年に向けて植えたニンニクやたまねぎも寒さ知らずで育っています。大豆を抜いて今は何もない畝には、道路を埋めている落ち葉を拾ってきて養分に。以前はあっても目に入らなかった道端の落ち葉や枯れ枝も、最近では土の養分や火を焚く時のエネルギーに見えて来るようになりました。昨年も別のことで感じましたが、暮らしの変化によって目に映るものが変わってくるのは相変わらず続いていて、面白いものです。
樹木医研修で高知県を訪れた際、先日もこちらで紹介した通りその研修自体もとても有意義な体験だったのですが、授業以外の滞在時間にも感じることがいろいろありました。 まずは宿泊場所。研修のあった林業大学校は森林公園が付属しているような場所なので、山間にあり、観光地でも便利な場所でもないので、そもそも宿泊設備が少なく、かといって高知市まで往復するのも時間もかかるし移動も面倒。途方に暮れていた前日の夜、それまで検索に引っ掛からなかったゲストハウスが浮上してきました。場所的に悪くなかったので、即申し込み。そこが大正解でした。
恐らく、独立して既に家を離れた子供たちの部屋を使って、お遍路さんを相手に奥さんが宿を営まれているようでしたが、本当に心のこもったもてなしをしてくださいました。朝ごはんは部屋に持ってきてくださるのですが、そこには朝ごはんとは別におにぎりとゆで卵、ちょっとしたおかずの入ったお弁当が。着いた日の夜の会話から、私が翌日の昼をどこかで調達しないといけないことを察して、ご準備くださったのでした。きっと長い旅をするお遍路さんにも持たせてあげるんだろうなと思いつつも、慣れない土地で1日目はわからないし時間もないから、結局コンビニで何か買わざるを得なかったことを考えると、お腹はもちろん心も満たされる嬉しいお昼でした。建物自体は、いわゆる普通の戸建てなのですが、そうした奥さんのおもてなしの気持ちが端々に表れていて、ゲストブックにも感謝の言葉が溢れていました。
■気づいて、行動して、みんなが満たされる
もう1つ、すごく温かな気持ちになった場所。それは以前「ギフトエコノミー」の回で紹介した服部雄一郎さんがぜひに、とお薦めくださった小さな食堂。「おすそわけ食堂まど」は、今年の春大学を卒業したばかりの陶山智美さんが立ち上げた食堂で、フードロスや貧困家庭、子供の居場所、過疎地域の活性化、地場産業・伝統産業の支援などさまざまな社会問題の解決に取り組んでいます。
こうした問題に気づき、声をあげる人はたくさんいるけれど、ここまで行動できる人は一体どれだけいるだろう。そう思うと、資金がない、もう歳だ、若すぎる、知識や技術がないetc.と言い訳を並べて行動を起こさない、起こせない人(私も含む)にとっては本当に眩しくて、軽やかで、すごすぎる存在でしょう。せっかく育てられたのに、ちょっとした傷や変形によって、またあるいは売れ残ったことで、気候に左右されて生育がうまくいかなかったり、できすぎたりといった理由で、陽の目を浴びることなく捨てられてしまう農産物に心を痛め、ただ野菜がもったいないだけでなく、作った人の気持ちや労力を無駄にしたくないとの想いでスタートしたそうです。
食堂の真ん中には、お茶とお水、炊きたての玄米入りごはんと汁物が据えられたテーブルがあり、そこには「おかわり自由です。お腹いっぱい食べて帰ってください。」とのメッセージ。これは日替わり定食を頼んだ人だけでなく、カレーやパスタなどを頼んだ人でも食べていってよいのだそう。
メニューは子供たちと一緒に作ったお手製の冊子で、この食堂を立ち上げた想いに加え、訪れた人たちがまたいろんな形でおすそわけができる方法が書かれていたり、ちょっとした読み物にもなっています。
一般の人はおかずと小さなデザート合わせて7品付いた定食が800円で食べられるのですが、同じものが学生は500円、子供はいつでも300円で食べられます。全国に広がる子ども食堂は月に1回など、まだまだ日常的になっていないのが現状ですが、毎日オープンしている子ども食堂にしたくてやっているそう。子どもたちと作るクッキーや、地元のお茶と組み合わせたデザートセットがあったり、ワークショップやお話会を開いたり。地域の人々もこの「まど」の活動に関われることに喜びを感じている人も多いようです。
そこでいただいた晩ごはんは、しみじみと美味しくて、とても心がこもっていて、本当に温かく満たされた気持ちになり、レストランを運営していた時、私たちはこんな風に来てくださったお客さまたちの心も満たすことができていただろうか、と思わず省みてしまったほどでした。
■シチリアのロゼとボリュームたっぷりの食卓
高知から戻ってしばらく経ったある日の夜。仲間のご家族が遊びに来られたタイミングで皆で食事をすることになりました。そこで今回用意したのがククルーロ家のコティロゼ。まずなんとも華やかでかわいいラベルにジャケ買いしたり、プレゼントに選びたくなる人が多いのではないでしょうか。私は基本的に太陽をたっぷり浴びたぶどうで造られたワインが好きで、シチリアのククルーロ家は私の中で大ヒットだったグリッロも造っているということで、その新商品はとても楽しみでした。
久しぶりのロゼワイン、色もロゼの中では比較的濃いめでネロ ダヴォラということもあり、それなりにしっかりしたものを合わせたいと思い、レバーも使ったポークパテと、白味噌を忍ばせた白菜のグラタンを作ってみました。
パテは面倒なように感じますが、実はフードプロセッサーを使えばあっという間に下拵えができて、あとはオーブンで蒸し焼きにすればできるし、日持ちもするので事前に作っておくこともできる便利な一品。
白菜のグラタンも蒸し煮にした白菜を白味噌を混ぜたホワイトソースと絡め、たっぷりのチーズをかけてオーブンで焼くだけ。これから白菜がどんどん美味しくなるので何度も食卓に上りそうなメニューです。友人たちの持ち寄りは、黒豆を使ったフムスに鹿肉のロースト、徳島の海で獲れた珍しいアジのカルパッチョ、イカのトマトスープなどバラエティに富んでいましたがどれも好相性。
華やかでかわいらしい香り、程よい酸味に優しいタンニン分も備えているこのロゼは想像を裏切らない万能選手として、食卓で大活躍でした。
(2021.12.22)
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