【第44回】木や森との関わり方
徳島・神山町からお届けする、美味しく、楽しく、気持ちよい「未来につながる日々の暮らし」
徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食のことなど…定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回はずっと動かず長い年月の間、変化する風景をじぃっと見続けたに違いない、大木との出会い。木に対する思いから樹木医に辿り着いたお話とマヴィの定番赤ワイン、カイロルを久々に開けた時の美味しいお話です。[月2回更新]
■木が好きすぎて…
銀杏が美しい黄色に染まり始め、あちこちの紅葉もいい具合に色づき、さざんかのピンクや白い花が目に留まる季節になりました。寒さが増し、冷え込みは厳しくなるものの、日中の空の蒼さや、夜に現れる月や星の美しさは格別で、この時期は空を見上げることが多くなる気がします。
先日、偶然知った「樹木医研修」の講座のために、高知県まで出かけてきました。四国に引っ越す前から、高知県だけは縁があった私は、マヴィの仕事でもプライベートでも何度か訪れて、とても好きな場所の1つです。
私は昔から木が大好きで、特に神社の境内などでよく見かける樹齢100年を超えるような巨木には無意識のうちに吸い寄せられていってしまいます。自分が木にそこまで惹かれるということをずっと長い間意識したことはなかったのですが、木に特別の感情があることに気づいたのは、実はなんとマヴィ勤務時代にピヴァ家を訪れたのがきっかけでした。ピヴァ家には、マヴィファンのみなさまならきっとご存知の方も多いでしょうが、お庭に樹齢800年を超えるレバノン杉が聳えています。十字軍の遠征の時に持って帰ってこられたのだとか。日本で考えると鎌倉時代頃から生きている木ということになりますね。その間風雨にも虫にも嵐にも負けず、誰かに切り倒されることもなく、ピヴァ家がお城だったその昔からずっとあの場所で、数々の歴史を見守りながら生きてきたのだと思うと、なんともいえない気持ちになります。
とはいえ、ただその話だけでは私にとってエポックメイキングな事態にはなりませんでした。それは、初めてピヴァ家を訪れお庭を案内され、その木に触れた時のこと。木の幹を触ったとたん、例えるなら雷に打たれたような衝撃が足元からザザーっと頭の先まで走り、あと一滴であふれてしまうくらい一気に涙がこみ上げてきたのです。自分でも本当にびっくりで、あんな体験は後にも先にもありません。(別の場所で、別の木のエピソードはありますが、あんなに感情を揺さぶられたことはありません)それ以来、特に大きな木はますます特別なものになっていき、どこに行っても、大木を見つけると近寄って触れて、呼吸を合わせてしまいます。
■樹木医って何をするの?
ここ数年で最も大きな木に出会ったのは2017年マデイラ島。
淡路島くらいの面積のモロッコの西に浮かぶ小さな島で、産業といえばマデラ酒とラム(サトウキビ)、バナナのみ。住人たちもいい人ばかりですっかり気に入ってしまいました。急峻な坂道だらけのその島は、火山が噴火して隆起してできたので、中央部が高地になっており、片方の海岸を出発して、その山を抜けてまた別の方の海岸に出るのに車で2時間余りでいけるのですが、両方の海岸では泳げるけれど、中央部の山ではちょっと着込んでも震えるくらい寒い、そんな不思議な島でした。その山中で出会った巨木群。写真にうつっている人間を見てもらうとその木の大きさがわかると思いますが(ちなみに木に登っているのは私)、本当に驚きの大きさでした。生涯で出会った中で一番大きかったかも。
そんな訳で、神山町には今すぐにでも伐採を進めたい伐採適齢期の木が大量にあり、間伐や山の手入れは急務なのですが、如何せん自分がガンガン木を切り倒すことに引っ掛かりと、物理的な不安もあって、自分が森や木のために役に立てるとしたらこれかもしれない、と思ったのが「樹木医」の知識だったという訳です。
研修はわずか3日間で、私のような初心者が参加者の多くを占めていたのですが、実際に樹木医のような診断をしてみる実習があったり、高知県立牧野植物園にて、樹木医として活躍している方から、起きた事例とそれをどう回復させていったか、今どういう過程にあるかということなどを現場を見ながらご説明いただいたりと、本当に充実した内容で、参加する前と後では明らかに木の見え方が変わってきました。大好きな木の状態を知って、よりよい森に育てていくために少しでも役立てていけたらと思っています。
■人気の赤ワイン、カイロルと煮込み料理が堪らない!
マデイラを訪れた同じ夏、南フランスのベリュウさんをオニヴァのメンバーで訪ねました。驚きますがもう4年も経ったんですね。数日の滞在の間に、カーブや畑の見学はもちろんのこと、畑仕事を手伝ったり、ベリュウさんの仲良しのシェーヴルチーズ農家さんや野菜農家さんに立ち寄らせていただいたり、私たちがエコ建築にとても興味があったので、そうした事例をいろいろ見せてもらったりととても実り多い時間でした。
ベリュウさんとオニヴァをつなぐ最大の絆はカイロル。オニヴァ営業中、最も多くのお客様に飲んでいただいたボトルワインです。これを飲むためだけにわざわざ高松から車を飛ばしてくるお客様、滞在中好きになりすぎて、1週間で合計10本くらい飲んだ強者のオーストラリア人もいました。神山内にもファンが多く、おすすめを、と言われて一番自信を持ってお出ししていたものの1つでもあります。
そんなカイロルを久しぶりに開けました。相変わらずの力強さの中に、なんともいえないエレガントさも秘めています。時間の経過とともに開いてきて、ひと口飲むたびに喜びが溢れるワインです。高知県で買ってきた、豚肉と塩、香辛料のみの手作りのサラミにもとてもよくあいましたし、ちょっとクリーミーなチーズもとてもよさそう。
シンプルにお肉が食べたくなったので、牛のすね肉をたまねぎやにんじんとともに赤ワインでコトコト煮ました。少しハーブを加えて、お好みでドライフルーツやよく熟した柿などを隠し味に加えても美味しいです。これからの寒い季節、こんな優しい味わいの煮込みと赤ワインがますます美味しくなりますね。
(2021.11.24)
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