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今日も美味しく、楽しく、気持ちよく――未来につながる日々の暮らし

【第38回】農業と切っても切り離せないもの

徳島・神山町からお届けする、美味しく、楽しく、気持ちよい「未来につながる日々の暮らし」

徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食のことなど…定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回は米作り、野菜作りなどの時間が増えた中で、じわじわ実感してきた農業という営みに付随し、費やす時間にも比例する「記憶」に関する話と新鮮ジビエ(鹿肉)にベストマッチ、ロワールの赤ワイン、おススメです。[月2回更新]

■ワイン農家さんの話で不思議に思っていたこと

 自分の記憶に残る中でも、これだけの雨が降り続くことはなかなかなかった、そんな8月の長雨がようやく終わりを見せ、太陽が戻ってきました。8月は入道雲と夕立の季節ではあったけれどこんなに降ることはなく、間違いなくこんな8月は初めてでした。各地で起きている災害に巻き込まれた方々にお見舞い申し上げるとともに、1日も早い日常生活が戻ってくることを願っています。

昨年は6/15に田植えを開始し、9/4でこの状態でした。今年はどうなるでしょうか。

 東京に暮らして、毎年多くのマヴィのワイン農家さんを訪ねていた頃、お話を聞きながらいつも不思議に思っていたことがありました。10年、20年といったスパンの昔のこともすごく鮮明にどんな年だったか覚えておられるのです。
「ああ、あの年はベト病に悩まされて大変だったよ。」「あの年の収穫時は気温が高過ぎたから、早朝暗いうちから収穫して対応したなあ。」「確かあの年は夏の気温がこんな感じだったはず…(と言いながら、記録を出してきて)ああ、やっぱりそうだね。」といった具合。
 もちろん今年の夏のように記録的な雨が続いたり、2003年の死者さえもたくさん出てしまったヨーロッパの大熱波のような年であれば記憶に残るのも理解できますが、そこまで特徴が顕著でなかった年でも同じように覚えておられることに当時はものすごくびっくりしたものです。

さて直近の稲、わぁ穂が出てました~!

 理由の1つには、オーガニック農業でぶどうを育てているから、認証を継続して取っていくためには記録が必須だということがあります。いつどんな形で病虫害対策をしたか、どんな資材を購入したか、細かな記録を残すことが求められているので、記録することにより、それを見返すこともあるでしょうからより記憶に残りやすいということはあるでしょう。
 そしてもう1つは「オーガニックでは、農薬を使って対処することができないから、病気や虫の害が広がる前に予防する必要がある。だから、毎日毎日畑に出て様子を見ているよ。毎日観察していれば、何かおかしいということにすぐ気付くことができる。子供と同じだよ。」と、ソーテルヌのフェルボスさんがかつてこんな風におっしゃられたように、まるで子供を育てるようにぶどうを育て、ワインを醸造しておられるからなのだろうと思います。

■記憶が鮮明になる理由

 私の生活の中に田畑で過ごす時間がこんなに入ってきたのは昨年からのことで、田畑に関しては新米も新米なのですが、そんな私でさえ、お天気がものすごく気になるようになりました。今年の夏のように夏にきちんと気温が上がらず、大雨が続いてしまったらお米はいったいどうなるんだろう?と思いますし(今のところとても元気に育っています。他の神山の地域でも順調に実っているようです。)、この長雨に入る前は雨が降らなさ過ぎて、植物たちは同じくとても苦しそうでした。
 その度にどうしたらよいかと考え、雨の日も、日照りの日も、できる手を打って過ごしてきました。だから今はほんの少しだけど、1年1年が記憶に残る理由がわかります。タリさんが、一生のうちせいぜい30〜40回しかワインを造ることができないんだよ、とおっしゃったけれど、私もあと何回お米づくりができるだろうとふと思うことがあるし、毎年春の気温や長さも、梅雨の状態も夏の暑さも全然違うから、これまでの経験を生かしつつも全く想像もつかないこともいくつも起きるのだろうと思います。

日照りの時は大豆や黒豆にもたっぷり水をやっていました(7月31日)

 農業を生業としている方々のこんな大変な部分は、日々私たちの食を支えてくれる命の源であるにも関わらず、私自身も全然気づかないまま長い年月を過ごしていました。もちろんどんな仕事にもそこに携わらないとわからないたくさんの苦労や、予期せぬ問題が日々起きていることでしょう。だからこそ、世界中の人々が、今生きていることは幾重にも重なった自然や人間のシステムが機能していることにより成り立っていることに気づき、感謝の気持ちをもてたなら、地球も社会も持続可能な方向に進んでいけるのではないかと考えたりします。

■エレガントなカベルネフランと鹿肉!

 神山では、猟師さんの知り合いがいると鹿や猪のおすそ分けをいただくことがよくあります。(猟が解禁されるのは毎年11月15日〜3月15日と決まっていますが、田畑を荒らしてしまうため最近ではそれを防除するために仕掛けた罠にかかった場合は処分が認められています。)それを使って友人が鹿肉のトマト煮込みを作ったので一緒に食べようと誘ってくれたので、ショヴァンさんのアンジューの赤を持って出かけました。

 静かで、とても真面目な感じで、スーツを着てオフィスに行くのも似合いそうなショヴァンさん。畑の管理も蔵もそんなお人柄がにじみ出るように清潔で整頓が行き届いていました。
 私は個人的にカベルネフランのもつ独特の野菜っぽい感じがそんなに好きではなくて、カベルネフラン100%のワインは苦手なものも中にはあります。けれどもこのショヴァンさんのワインはそういうところがなくて、実にエレガント。果実の香りにちょっとスパイスのニュアンスもあり、赤身のお肉との相性がとても良いです。鹿肉は脂肪分が少なく、処理がきちんとなされていれば臭みもなくて、赤身の牛肉のような味わいです。
 たまねぎやニンジンなどの野菜の甘みにトマトの酸味と旨味が加わり、アンジューのもつきれいな酸と相まってなんとも美味しいマリアージュでした。ご家庭ではぜひ牛のモモ肉などでお試しください。

鹿肉とショヴァンさんのエレガントな赤がよい感じに寄り添いあいました

(2021.09.01)

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