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今日も美味しく、楽しく、気持ちよく――未来につながる日々の暮らし

【第35回】立志

徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食のことなど…定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回は神山町で伝統的に続く立志式を控えた中学2年生に向けた仕事に関する話をきっかけに思い出されたある「悩み」への気づきの瞬間。フランスで体験したワークショップの話を中心に。大人も悩み続けるんです。[月2回更新]

■中学2年生に話をする機会を得て

「梅雨が明けた。」とはっきり感じられた今年の梅雨明け。日差しや空の色がある日を境に夏になり、蒸し暑さが少しカラッとした暑さに変わりました。今年は早めに植えたトマトやナスが既にたくさん実ってきました。インゲンやオクラも実をつけ始めています。

去年に引き続き黒豆を植え、自分たちの大豆で味噌を作ることを目標に大豆もまいてみました。サツマイモも友だちに蔓を分けてもらって畑にさしたところ。その合間には草を刈って、抜いてと夏の畑作業は大忙しです。

分蘖が進んできたけれど、葉の先を鹿に食われてしまった稲
ビーツ、きゅうり、オクラ、じゃがいも、インゲン3種類を収穫しました

先日、中学2年生の前でお話しさせてもらう機会がありました。神山では立志式と言って、かつての元服の年である15歳を迎える子供たちが、自分の将来や進路について考えて、みんなの前で発表するという行事が伝統的に続いています。神山中学校では、それを控えている2年生の授業時間を使って「多様な仕事を知る」「自分の生き方について考えてみる」といったことをテーマに学習しているそうです。

そこで、神山中学校が以前こちらのコラム第18回でも紹介した「町民町内バスツアー」を活用し、子供たちがバスに乗って、神山で暮らす多種多様な大人たちに出会い、仕事についての想いや人生観を学んでもらおうと企画されたということで私にもお声がけいただきました。

現在何者でもない私が話せることなどあるのだろうかと思いつつ、やりたいことをやるために、働き方を調整するそんなライフスタイルは彼らの考えにはないと思うのでぜひ、と言われ引き受けることに。中学2年生に何が伝えられるのかなと考えつつ、自分の人生を変えることになったフランスの山の家の話を中心に、マヴィでのこと、さらに想いがあって神山町にやって来て今があること、今の私が感じる大事だと思うポイントをちょっとまとめてお話をしました。

そこから、想いを巡らせているうちに、久しぶりにある日のできごとを思い出したのです。

■フランス滞在時、あるワークショップの思い出

フランスの山の家では、夏のヴァカンス中いくつものワークショップが行われていました。いわゆる自己啓発的なものが多く、自然と清らかな水に囲まれた環境が自分と向き合うのに適していたのか、そうしたワークショップをしたいという人たちが後を絶たず、夏休み期間の大半がそうしたワークショップの人たちで埋まるほどの時期もありました。

そんな中、私も出会った途端この人のワークショップに参加してみたい!と感じたあるアメリカ人女性がいて、数年間その人が来るたびに時間の許す限り、参加させてもらっていた時期があります。そのワークショップには、その人を慕って毎年参加する人も多く、私も顔見知りになった人が何人もいました。

ある日の夕暮れ

そんなある日、アイスブレイク的なちょっとしたエキササイズを参加者の一人が実施しました。「自分ができない・無理」と思い込んでいる考えを解き放つというワークです。その人からの説明のあと、近くにいる人とペアになって実際にやってみます。私の相手はユゲットという当時もう80歳前後になっていたおばあさんでした。彼女も毎年参加していた人の一人なので、お互いそれなりに知っていて、話をしたことも何度もあるような間柄でした。

■大人も悩んでいる、「正解」探し

私がその頃それこそ何年もずっと抱えていた悩みは「自分が何をしたいのかわからない」というものでした。ユゲットから段階的に質問をしてもらいながら、エキササイズの通りにやってみますが、「自分が何をしたいのかわからない」というがんじがらめの考えはいっこうに頭から離れてくれません。

「全然ダメだー」という私にユゲットは優しく、「まあ、このエキササイズはいったん置いておくとして。」と言いながら、こんな風に続けてくれたのです。

「あなたは人のために何かをすることが大好きね。それはあなたの働き方を見ていればよくわかるわ。何がしたいかわからないですって?もうよくわかっているじゃないの。」

自分の心と頭を塞いでいた、大きな氷のように重く重くのしかかっていた何かが溶けた瞬間でした。涙が止まらなくなって、いい大人がわんわん泣きました。

自分がずっと探していたのは「医者」とか「通訳」とか「料理人」というような、職業や分かりやすい肩書きだったことにようやく気づけたのです。

だからというわけではないけれど、相変わらず私には肩書きはありません。私の職業はその時々で変わっていますが、周りの人の役に立ちたい一心で、そして大きな目標である「誰もが自分が大切だと思うことをきちんと大切にして生きられる世の中」を目指して進んできたし、これからも進んでいくのかなと思っています。

中学生たちに、この話をしたらよかったかなあ。また機会があればということで。

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(2021.07.21)

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