【第24回】「大勢でテーブルを囲む喜び」
徳島・神山町からお届けする、美味しく、楽しく、気持ちよい「未来につながる日々の暮らし」
徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食のことなど…定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回は食卓を囲める尊さとそんな集まりにこそ本当はおススメしたいソーテルヌと意外に合う!おつまみの話です。[月2回更新]
■春に向けて想いを新たに
前回のコラムで「大寒に入った!」と書いたのですが、立春までぽかぽかするくらいの暖かい日が多かった神山町です。節分の日には畑のある場所で作業をしていたら、小鳥か何かがすごくたくさんいるような鳴き声が聞こえてきて、いったいどこにいるんだろうと近づいていくと声の主はなんとカエル。暖かすぎて早く冬眠から目覚めてしまったんでしょうか。
この時期の神山には蝋梅の花があちこちで見られ、そのエキゾチックな香りとともに気分も華やぎます。モノトーンな冬の神山に淡い色を添えてくれる貴重なお花です。
この連載が始まって24話目。2週間に1本のペースで書いてきたので、約1年が経過しようとしています。毎年2月の終わり頃にマヴィ赤坂店にて開催させてもらっていた料理とワインのイベントを、新型コロナウイルスの蔓延が考えられたことから、自粛することになったのが発端です。
小さな空間に人が集まって飲食することは諦めるべきだろう、でもその代わりに、マヴィで働いていた頃からオーガニックなライフスタイルの普及を先頭だってやっていた私が、今実際にどんな暮らしをしているか紹介するのはどう?と持ちかけてもらったのでした。
この1年間の連載を通じて、神山というまちの面白さや私の思うサステナブルな暮らしのイメージが少しでも伝わっていたら嬉しいです。(ご意見、ご感想なんでも歓迎です!)
■状況は一変、でも大事にしたいこと
マヴィ赤坂店でのイベントは、マヴィに在籍していた当時から年に2回くらい行っていたもので、店舗の奥のキッチン付きのスペースにて、私が料理を作ってその日集まってくれたみなさんにマヴィのワインとともに食事を愉しんでもらうというシンプルな会でした。在籍当時は毎回テーマを決めて(赤ワインの会、スパイス、アルザス、ブルゴーニュ、などなど)進めていましたが、私が徳島に引っ越してレストランを始めてからは、旬の地元神山・徳島の食材のみで作る料理に合うマヴィのワインを、一緒に召し上がっていただく形へと姿を変えました。
とは言っても、1つのテーブルに6名の方が座り、そのテーブルが3台連なって合計18名の方が席につき、お料理とワインを愉しむということは一貫して変わりません。イベントとして募集されるので、当然のことながら2名で来られる方もおられれば、1名で参加される方、グループでお越しになる方とまちまちなので、お席は常に相席になります。でもこの相席が生み出す効果が本当に素晴らしかったのです。
マヴィ在籍中も夏になると毎年訪れていたフランスの山の家での食事は、いつもこんな風でした。山の家は農場民宿で、食事の際には宿泊客全員が同じ時間、同じ場所に集まって、すでにセッティングされた(早めにきたお客さんはよくセッティングも手伝ってくれました)テーブルの好きな席に座って、大方が揃ったら私たちスタッフが大皿に盛られた前菜を出し、最後には私たちもどこか空いている席に座って、みんなで食事をするのです。
■共に食べ、話すことで生まれる何か
老若男女が混じり合い、初日は名前を聞いたり、普段は何をしていて、どこに住んでいるのかといった自己紹介的な話からスタートしても、3日も経てば深い哲学的な話になることもあり、日中に散策した場所がどんなに素敵だったかという話になったり、意気投合して次の日の予定を一緒に決める人が出てきたり。とにかくどのテーブルも楽しそうで幸せそうで、大きな笑い声が聞こえ、食事が進んで食べ終わった後もテーブルでのんびり談笑が続くことが日常茶飯事でした。
そんな空気感が赤坂店でもまさに展開されていて、デザートもワインも全部出て、お時間が来て一応終わりの挨拶をしても、その日初めて出会った人同士のテーブルのはずなのにいつまでも楽しそうなお話が続いていたりすることは実によくありました。一緒に食事をするということには、言葉では説明しきれない、人と人との垣根をすっと無くしてしまう何かがあるように思えてなりません。
ばったり久しぶりに出くわした人に、「またゆっくりご飯でも(お茶でも)」と声をかけることはどんなに多いでしょう。もう少し話したそうだな、と感じた時にも「今度ご飯にでも行こうよ」と思わず口をついて出てしまいませんか?
改めて思いますが、そんないわば誰にとっても当たり前だった、でもこれ以上ないほどの大切な営みが、この1年間ずっと制御されてきたんですよね。日本ではお正月の、フランスだったらクリスマスの家族の集まりもできなくて、寂しい思いをした方が多かったのではないかと思います。あの温かで、笑顔のこぼれる時間と空間が早く戻って来ることを願うばかりです。
■ソーテルヌの特別感を存分に味わえる料理とちょっと意外なおつまみ
クリスマスのご馳走としてフォアグラを食べることの多いフランスの家庭で、お供に開けることが多いソーテルヌ。貴腐菌という特別なカビがぶどうの周りについて水分を奪っていくことで、甘さが凝縮され、特別な甘みをもったワインができます。
甘みの中に心地よい酸味も感じられる品の良いワインで、クリスマスのような特別な場面や、鉄板と言われるロックフォールをはじめとするブルーチーズとの組み合わせ、アペリティフ、デザートワインとしてはもちろん、前菜やメイン料理と合わせることも可能です。お料理でもデザートでも柑橘やパイナップルやパッションフルーツなどの酸を忍ばせたものが良いでしょう。
今回はチキンのレモンソースを作ってみました。鶏の胸肉あるいはモモ肉を用意し、火の通しやすい大きさにカットし、塩胡椒して片栗粉をまぶします。油を多めに敷いたフライパンで揚げ焼きにし取り出します。甘酢を作る形でレモン汁、砂糖、塩、好みで穀物酢を少々加えて煮立て、そこに揚げ焼きにしたチキンを絡めてお皿に取り出してできあがり。甘酸っぱさがソーテルヌに合いますよ。
驚きだったのが、友人が用意してくれたピータン豆腐がとてもよく合ったこと。写真はゴダンさんのところでアペリティフに出してもらったことのあるピータンとガリ(生姜の甘酢漬け)を試してみたのですが、それとは別にお豆腐にざく切りにしたピータンとネギを載せ、ごま油やナンプラーの入ったタレでいただくピータン豆腐とソーテルヌの相性が抜群だったのです。嬉しい驚きとともに写真を撮らなかったことを大いに後悔した瞬間でした…。
(2021.02.17)
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