【第13回】「神山アーティスト・ イン・レジデンス」
徳島・神山町からお届けする、美味しく、楽しく、気持ちよい「未来につながる日々の暮らし」
徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食のことなど…定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回は季節の楽しみアートの秋について。今年は開催出来なかった町を挙げての大イベントのご紹介。[月2回更新]
■秋に向けて、本来はこんな楽しみも!
残暑が厳しいものの、日が落ちるのが毎日早くなり、ある日を境に朝夕の涼しさが変わって、少しずつ秋の気配を感じるようになりました。今年は梅雨明けが遅かったから、夏がすごく短かったように感じます。
すだちの収穫に大忙しになるこの時期の神山町のもう1つの大きなイベントが、本来なら今年で22年目を迎える、「神山アーティスト・イン・レジデンス(KAIR)」です。KAIRは、1999年からスタートした国際的なアート・プロジェクトで、毎年8月末から約2ヶ月余りの期間、公募で選ばれた日本国内および海外からの3~5名のアーティストが神山町に滞在します。その期間に作品を制作し、10月下旬から2週間弱の作品展覧会も開催されます。
そう、この時期はアーティストさんが町に到着され、KAIRのお世話係の方が町中を案内している姿が目に入るようになり、ウエルカムパーティーなどが実施されて今年のアーティストさんたちに「初めまして」を言うタイミングなのです。私の住む界隈は、神山町の中では「銀座」と呼ばれるような場所。役場をはじめ、小さなスーパーマーケットや商店、飲食店などもある目抜き通りの1つです。そして、毎年3〜5名くらい滞在するアーティストさんのうち、誰かが作品の展示をされることになる、かつての劇場「寄井座」もすぐ近くにあるためアーティストさんたちとの接触も多く、「今年はどんな人がどんな作品を作るのだろう?」と毎年この時期になると楽しみが増えます。
■交流を中心にしたアートプログラム
このプログラムの特徴は、とにかく滞在されるアーティストさんたちと住民の交流が多いこと。制作に関与する場合(お手伝いはもちろん、モデル、写真や映像作品だったりすると作品に登場するパターンまで!)も多々あるし、作品を創る上でのインスピレーションになることも多い町内外での見学や体験(藍染、炭焼き等々)、それ以外にも滞在期間中に町にある小中高での課外授業、制作途中の様子を見せてもらえるオープンアトリエの日、出身の国や地域のお料理を作ってくれ、参加住民もそれぞれ手料理を持ち寄る食の交流ポットラックパーティ、そしてクライマックスの作品展示会と、アーティストさんたちが町中に出没して、いろんな人と出会う機会が数多く用意されています。
神山町の住民の多くが、町に外国人が歩いていてもそれを日常として受け入れ、英語やその国の言葉ができてもできなくても、割と積極的に話しかけたり、交流する素地があるのは間違いなくこのプログラムのおかげなのだろうと思います。もちろん、1200年続くお遍路さんをもてなす文化がDNAに刻み込まれているのも、この地の皆さんがKAIRのアーティストさんたちだけでなく、移り住んできた私たちにも常におおらかで、助けを惜しまず、ハートを開いてくださる所以なのでしょうけれど。
そんな風に過ごす2ヶ月余りは、アーティストさんたちにとっても心が動く滞在になるようで、驚くほど多くのかつての招待作家の皆さんが短期・長期に関わらずこの町を再訪します。
そして再び会える喜びは、作家本人にとっても 町民にとっても大きく膨れ上がり、だからまた会いたくなるという好循環。神山の住民が海外に行く際にアーティストを訪ねるパターンもあります。以前ご紹介した神山のマイクロブルワリーKAMIYAMA BEER PROJECTのさやか&マヌスは、このプログラムがきっかけで再訪を繰り返す中で移り住むことになった例の1つです。
阿波踊りに夏祭りや焼山寺の花火もなく、そしてアーティストさんたちも来られない夏は初めてで、ぽっかり穴が空いたようです。こうした一連のイベントがすっかり自分にとっての日常になっていたこと、それらをとても大切に感じていたことを改めて思う2020年の秋の始まりです。
(2020.09.02)