【第3回】種まきのすすめ
徳島・神山町で人気の「カフェ オニヴァ」長谷川浩代シェフの連載
徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食のことなど…これから定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回は、こんなご時世だからこそ、じっくり「種まき」について考えます。[月2回更新]
■営業自粛を決めました
ほんの数ヶ月前には想像もしなかった世界が目の前に現れ、国や地域を問わず混乱し、実際に苦しい立場に直面している人も多く、とにかく心が休まることのない日々を過ごしておられる状況かと思います。私たちカフェ オニヴァも感染の拡大を考慮して、3月末日より営業を自粛することになりました。
本来なら、神山町が一番美しいこの季節は、私たちにとっても一年のうちでもっとも多くのお客様と出会える嬉しい時期です。今年は残念ながらそれが叶わず、寂しい期間になってしまいましたが、メンバーとじっくり話し合い、予てからしっかりと取り組みたかった各所の整備や、田畑の準備、種まきをして、営業再開に備えようと決めました 。
■畑で日々感じる、命の奇跡
植物を育てたことがある方はご存知だと思いますが、野菜の種って本当に小さいんです。にんじんも大根もレタスも見事に小さい。米や麦は大きな方で、小学校で朝顔やひまわりを育てるのは、育てやすさはもちろん、あれくらい大きな種だからなのだろうと改めて思います。唐辛子やピーマンなどは調理の際に普段から種を目にしますが、あんなに薄っぺらくて小さい種の一粒一粒が日頃食べている野菜になるのです。
しかも同じ土にまかれても、それぞれの種が必要なタイミングで芽を出して(気温や周りの環境が整わなければ、何年も芽を出さずに待つこともあるのだそう!)、それぞれ違う野菜や植物へと成長していきます。自分で育ててみるまであまり意識していなかったけれど、考えれば考えるほど不思議です。
動物や自分、人間も含めて、この世がこんな風に命の循環で成り立っていることが本当に奇跡だとつくづく思うのです。
種が育っていくには、日照や水分、気温、土壌の栄養など実に様々な要素が絡み合っています。過酷な環境でも育つ種もあれば、全部の条件が整わないと成長しない種もあります。途中で虫や動物に食われたり、うっかり踏まれてしまうこともあるかもしれません。まかれた土地に栄養がなくて、大きくなれないこともあれば、栄養や水が豊富すぎて腐ってしまうことだってあります。
農場を訪れたり、収穫に参加したぶどうがワインとなって手元に届いた時に、言葉にできないような喜びを感じたことが何度もありますが、まいた種が実を結ぶって実はすごいことなんだって本当に思うのです。「物」としてスーパーに並んでしまうと完全に見えなくなってしまうけれど、実際には自然と農家の方々が時間をかけて育んでくれた奇跡の結晶が目の前に並んでいるんです。
■先の為に「今」をじっくりと
春は、新入社員や異動、年度の切り替わりなど、日本では新生活が始まる時期。同じ仕事が続く人も、習い事を始めてみたり、新しいことをやってみようという意欲がわく季節の筆頭だと思います。今年は新型コロナウイルスの影響でそれどころではない、という人もおられるかもしれませんが、一方で外出自粛などをきっかけに、むしろ自分自身のことやこれからのこと、日々の暮らしのことなどを改めて考え、向き合っている人も多いのではないかと思います。
先が見えないことの不安は、「今」という瞬間瞬間を心身で意識しながら着実に過ごすことで少し払拭できるかもしれません。そのためにも種をまいてみませんか?物理的に野菜や果物の種をまいてみるのもいいし、自分が本当にやってみたかったことの第一歩を初めてみるのも別の意味での種まきですね。こうなってほしいという未来に向けて活動している人を応援するのも種まきかもしれません。何より日々の行動の1つ1つが小さな種まきの連続です。
芽吹くのはいろんな条件が整った時なので、なかなか芽吹いてくれない種もありますが、コツコツと土壌を整えるのもまた喜びになるのではないでしょうか。自分のまいた色々な種が将来芽吹き、成長している姿、そして収穫の様子を思い浮かべたらふつふつと元気が湧いてきませんか。
さあ、今日も畑に行ってきます!皆さんの種まきについてもまたぜひ教えてくださいね。