自分が感じた味をもっと素直に語ろう
私は日本から遠く離れたフランスの南西地方、フランスワインで有名なボルドー大学に通っております。大学に醸造学部があるのが、ワインの本場らしい魅力です。
ヨーロッパで生活を始めて7年目に突入し、ワインの世界に身を置き始めて数年たちますがワインを嗜む席で少々疑問に思うことがありました。
ヨーロッパの人々に比べて、私たち日本人の多くの方はワインに対してコメントをすることにどこか自信がなく、気後れしているように感じるのです。
もっと言うと、知らないからコメントが出来ていないというより、伝えたいものがあっても周りを気にして「恥ずかしい思いをしたくない」と。
これは友人の間で飲んでいる時に限らず、渡仏してソムリエになりたいと志した日本人学生からも感じられるのです。
かくいう私もワインを学びたての頃は、他のフランス人が鼻高々と自分の感想を述べると、「ははぁ、なるほど。この香りがこうなのだなと」いつも聞きに徹底していましたし、今でも醸造家の方と一緒にワインを嗜む際は、常に彼らのコメントを大切に吸収しようと努めます。これは勉強です。
しかし、ワインを飲む席では、ワインのコメントを共有することで不安になる事、恥ずかしいと思って尻込みするのはもったいない。むしろぜひ積極的にコミュニケーションしてほしいと思います。
もちろん誰かがワインをコメントしているときにそれを遮ってまで、自分が話し出すというケースは全くもってアウトです。しかし、せっかく人が集まって気さくな雰囲気が漂う席で「間違えるのが恥ずかしいから」という理由で発言をしないのは残念です。
私がテイスティングの授業を受け始めた最初の頃でした。ワインの香りもそうですが、口に含んだ後の味や舌触りもワインを分析する時の大切な要因です。そのためには、ワイン以外の生活に馴染んだものも口に入れ、より具体的にコメントをできるように訓練もしました。
私たちが普段表現する五つの味、これらは何も難しい事ではありません。例えば、ワインの甘さの強度の感覚を掴むためには、砂糖水を異なる濃度にして複数のグラスに入れて違いを確認します。また牛乳も水で薄めたりして「まろやか」「ボリューミー」に使われる表現はこの程度、というようにまずは基本的な味覚や触感を身に着けていきました。
ワインの「味」を表現して、相手へ伝えるならば私たちが共通して知っている、覚えていることへリンクさせていくのがまず第一歩です。
本来、ワインのような嗜好品には「正解」はありません。
醸造学を学びたての学生であったら、ワインを嗅ぐたびにこの香りは好ましくない!この香りはこれに由来する!と必死に考え、覚えようとするのが当然でしょうが、ワインを素直に楽しまれたい方達からしたら、それは、ほぼ関係のないことです。
「美味しい」と思ったらそれが正解で、「自分の好みじゃない」となったらそれもまた別の正解です。不正解という感想はありません。
流石にこれは口に出来ない!というものに関しては別ですが、市場でそういったワインに当たる事は滅多にありません。
私は、日本人は「ワイン」という単語を聞くだけで、まるで思考がストップしたかのように他人の情報を鵜呑みする状態になるか、身構えて必死に拒絶してしまうという通癖を持っているように感じます。
ただ、「ワイン」はそんな気疲れさせるために存在しているのではなく、他のお酒同様に無心に楽しむために存在していることを理解して欲しいと思います。
例えがワインではありませんが、私が日本酒をフランス人の方にふるまう機会がありました。
そのとき彼らは私に素直に「僕たちは日本酒というものがまだ分からないんだ、でも間違っていたら教えてほしい。僕は、このお酒を飲んでさわやかさをイメージした。ちょっと酸っぱく感じた。この料理よりかは、別の料理に合わせてみたい」と、コメントをされました。
自分のコメントが正しいかどうかの前に、自分が思った感想を謙虚に、かつ素直に仰ってくださったのを目の当たりにして、とても嬉しく感じました。
これがお酒を通じて発展していくコミュニケーションです。
繰り返しますが、ワインを始めお酒は結局嗜好品であり、正解も不正解もない世界です。そのワインを飲んで、自分が感じた事を素直に話せるきっかけを作り出してくれる存在なのです。
「美味しい」「飲み易い」と感じられましたら、まずそのように感想を述べてください。
ただ、「美味しい、飲み易い」と言った後「何故」そう感じたか、ならば「何故」飲みにくくなかったのかなど、理由を一つ、二つ付けることができますと尚更素晴らしいです。
プロの様な表現や言葉は使わなくても、私たちが普段から感じている味の感覚で説明をすればいいのです。「水のようにサラサラ飲めた」「香りが好きだ」「こんな味がした」「すごく重い印象があって飲みごたえがあった」などなど……。
このように普段から感じられている感じ取り方でまずはワインを楽しんでいただければと思います。
そこからもし更にもう一つ理由を付け加えたり、飲んだ時の心情を説明までできたりすると更に会話が弾むことでしょう。
そのようなワインを多くお客様へご紹介できることが私のミッションであり、自分が飲んだワインの感想を自由に言い合えるようなコミュニティが広がって欲しいと思っています。
(2020.08.12)
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