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今日も美味しく、楽しく、気持ちよく――未来につながる日々の暮らし

【第40回】農業からみる日本の未来

徳島・神山町からお届けする、美味しく、楽しく、気持ちよい「未来につながる日々の暮らし」

徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食のことなど…定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回は2シーズン目の農作業から実感。未来の農業基盤の危うさとオーストリーワイン生産者の思い出をグリューナー フェルトリーナーとともに。豚肉料理との相性は抜群です[月2回更新]

■実りをめぐる攻防戦

稲の穂が日に日に頭を垂れてきました。毎日心躍らせながら眺めていたある日の朝、ある一画の20〜30株くらいでしょうか、稲穂の部分がかじられています。恐れていたことが起きてしまいました…。その少し前には、畑に小動物が入ったようで、落花生やさつまいもが根こそぎ掘り起こされ、踏み荒らされるという事態。電柵や畑の周りを覆っている網もかいくぐって、出られなくなるかもしれない危険を冒して入ってくるのだから、きっと動物たちもお腹を空かせているのでしょうが、なんともやりきれない思いです。

右下〜中央辺りの稲が食べられてしまいました、、、

フランスの山の家に通っていた頃、新しく畑担当として入ってきたフロリオン。初年度はやることなすことうまく行き、上々のスタートを切りました。ところが2年目は天候も味方してくれない、いろいろ手を打っても虫や病気にやられてしまう。挙げ句の果てには調子よくできていた作物さえも「2本足の動物(=人間のこと)」に持って行かれてしまうことさえあり、散々な目に遭っていました。

さすがにきれいにできていたスイカを盗まれた時は結構落ち込んでいましたが、「農業をやるってことは、いろんなことが起きて当たり前。ピンチに立たされた時にどうやって乗り越えていくか、それでもちゃんと続けていくのかを試されているんだと思ってるよ。」と話していて、当時彼はまだ24歳くらいだったと記憶していますが、すでに農家としてやっていく覚悟ができていたんだなあと改めて思います。

■身近に感じてきた自給率と農業の問題点

私たちも、まだたった2シーズン目ですがやはりいろんなことが起きますね。その都度考えて、対策をして、いろんな人に相談をして。ここ神山町には同じように山間で作物を育てておられる方がまだたくさんおられるから、お話を聞くこともできるし、やってみながら相談できるのでとてもありがたいことだと思っています。

インゲンの手入れをしながら、「そう言えば、山の家に行くまではこのインゲンがどうやって実るかも知らなかったな。去年は8月がしっかり暑かったから、もう9月になるかならない頃には抜いてしまったけど、今年は8月の長雨や9月になっても気温が低かったからか、一度実らない時期もあったけど、また復活してどんどん実をつけたな。でも確実に葉は枯れてきたからもうすぐおしまいかな…」などと考えていました。

大豆も育ってきました

実際に作ってみるまで、本当に何にも知らなかった自分がいた訳ですが、身の回りに畑があったり、実際に作っている環境で育ってこなかった人はきっと私と似たような状況なのではないかと思います。でも今、日本の農業人口はここ5年で46万人も減少していて、およそ152万人。農業従事者の年齢で見ると65歳以上がなんと69.6%。60〜64歳も足すとほぼ8割を占めています。49歳以下の人は、日本の全農業従事者数の10.8%しかいません。(出典:農業協同組合新聞2021年4月28日付の記事より。)

国産が大好きな日本人ですが、普段食べる野菜や果物までそのほとんどを輸入に頼らなくてはならない未来はすぐそこまで迫っていると言っても過言ではないでしょう。世界的な気候変動で、世界の農業の状況も決して盤石とは言えない今、本当に輸入で賄えるのかも定かではないかも、と思うと、農業に適した国土と豊かな水を手にしながら、食べ物がなくて困るという事態が襲ってくるのではないかと、ようやく本気で「危ない」と感じるようになりました。マヴィでオーガニックなライフスタイルを推進していた時も、そうした数字には触れていたし、その時からこの危機的な状況はすでにわかっていたとは言え、それは頭が理解していただけのこと。今はその危険さが現実のものとして迫っているのを感じます。

季節に翻弄された今年は、柿も不作。残った実だけでも育ってくれますように。

■オーストリーワイン農家を思いながら白ワインで乾杯

オーストリアのディヴァルト家は、ぶどうを育て、ワインを造っていたお父さんの跡を息子のマーティンが20代で引き継ぎ、お父さんは好きなぶどうづくりに専念して、マーティンは主に醸造と販売、営業を担っています。ディヴァルト家のように後継が安心して農業を続けられるというのは、日本から見るととても恵まれた環境に思えます。日本ではこの秋も米の買い取り価格がまた下がり、農家はもう黙って農家を辞めるしかない、との声も聞こえてくるのが現状ですから、国の農業に対するスタンスの違いを感じざるを得ません。

私がディヴァルト家とマントラー家のあるオーストリアを最後に訪ねたのは、2010年。なんと既に11年もが経過していました。ついこの間のような気がするのに、あの頃27歳だったマーティンももう40歳間近なのかと思うと驚きです。マーティンの手がけるワインは、オーストリアワインの特徴を体現するような爽やかでスッキリとしながらも、深みも感じさせるのが特徴的です。和食や野菜料理との相性もよいので、マヴィでも取り扱いが始まったとたん、一気に人気になりました。

私自身もマーティンがまだ若いのに、ものすごくしっかりと信念を持ってワイン造りに取り組んでいたことも手伝って、すぐにファンになり、オニヴァでも常にオンリストさせていました。これまでなじみだったフランスやイタリア、スペインワインにはないグリューナー フェルトリーナーという品種のもつ、弾けるような爽やかさと心地よさ、飲みやすさは新鮮でもありました。

燻製が終わったところ。いい匂いです。

先日はそんなことを思い出しながら、久しぶりにこのボトルを開け、豚バラ肉の塊を使ってリエットと自家製の燻製を作りました。燻製は砂糖と塩で下味をつけておいた豚バラ肉の塊を桜のチップで燻したものですが、中華鍋と網、ボウルで蓋と、家にあるもので作れます。今が旬のさつまいももオイルと少々のニンニクと塩を使ってアーリオオーリオ風に。最後にすだちの皮を削って、彩りと香りを添えました。爽やかなワインと、つまみの塩気と脂がぴったりとはまり、無限ループに入ってしまいそうなひと時でした。

茶色のココットに入っているのがリエット、右下が厚めにカットして焼いた燻製。さつまいものアーリオオーリオにはすだちの皮を削って爽やかな香りを添えて。

(2021.09.29)

グリューナー フェルトリーナー 白

オーガニック先進国オーストリアの爽やかな辛口白ワインです。レモンやハーブの爽やかな香りに抜群のミネラル感。程よく広がる酸味と優しい果実味の「ピュア」なオーガニックワインです。

2024年ボジョレーヌーヴォー到着