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今日も美味しく、楽しく、気持ちよく――未来につながる日々の暮らし

【第17回】「神山の森林ビジョン」

徳島・神山町からお届けする、美味しく、楽しく、気持ちよい「未来につながる日々の暮らし」

徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食のことなど…定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回は神山町の森林保全への取り組みについて。動物も人も心地よく暮らすには…?[月2回更新]

■移りゆく季節、人と自然と動物と

 いつもの10月より雨が多い印象の2020年の10月です。
 神山に住むまでは雨というと「どの靴履こうか、、、」から始まり、服の裾が濡れてしまうとか、電車の混雑とか、想像しただけでどこかマイナスな気持ちになることも多かったなあと思い出します。でもこちらに来てからは雨が降ると1つ嬉しいことがおまけで付いてくるんです。それは川の水の色。驚くほどに美しいブルーになります。雨で水量が増えることで、石や川底の藻が一掃されるのが理由なんだそうですが、たくさん降った日の翌々日はため息ものの美しい川の水に出会えて本当に清々しい気持ちになります。

雨の後の美しいブルーの鮎喰川

 実りの秋です。つい先日はさつまいもと紫芋を掘り起こし、落花生も収穫しました。お腹を空かせた鹿が動物除けに畑の周りを囲んでいる網を飛び越えて畑に侵入し、さつまいもも落花生も見事に葉っぱを食べ尽くしてしまいました。幸い地面に埋まっている実の部分は興味がないようで、地中に埋まった人間が欲しい実は成長した後だったので、葉っぱがなくなってもとりあえず大丈夫。でも育ち始めたじゃがいもの葉っぱも見事にかじられ、こちらは成長してくれるかどうか心配なところです。これは里山あるあるで、どの地方も同じ問題に頭を抱えておられることでしょうが、猪、鹿、猿の被害はここ神山町でも深刻です。

鹿に見事に葉っぱを齧られたさつまいも…

 ただ、こうなると対策として害獣駆除や四方八方に網や塀を巡らせて「害獣から作物を守る」という発想になるのが一般的です。もちろん私たちもせっかく育てたものがやられては大変ということで、網を張ったり、電柵を設置したり、作物のいろんな段階でどう守るかを考えてはいます。でも根本の原因を考えたら、動物たちが人間の住む里までやって来ざるを得ない状況を作ってしまったのもまた人間だったということに気づきます。

でもおかげさまで立派なおいもが出来ていました

■日本の森林の現状と樹木のバランス

 人工林として大量に植えられた杉や檜は、鹿や猪などの動物にとって食べるところはなく、木が大きくなるに従い、きちんと間伐されなければ光が地面に届きません。そうなると下草は生えず、動物の餌になるようなものが山の中で育たなくなります。広葉樹であれば、どんぐりができたり、実がなったり、その葉っぱも餌になったりするのですが、針葉樹だとその役割は果たせません。森の中に食べ物があれば、動物はわざわざテリトリーを超えて里まで出てくる危険を冒さなくて済むのです。

杉木立を下から眺める

 日本の森林率は68.5%。面積の3分の2以上が森林だということになります。OECD諸国の中でフィンランドに次いで第2位の森林率なのだそうです。ところが林業に就業している人の数は約5万人ということで、人口の4.5%しかいないのが現状です。(2015年時点:森林・林業学習館より)伐採適齢期を迎えている木がそこら中にあるのに、それを適切に処理できる人材が揃っておらず、さらには輸入外材との価格競争による木材価格の低迷も後押しして、日本中の山が半ば放置に近い状況になっています。昨年の台風の被害で千葉県は停電が続きましたが、その原因の1つとして、林業の衰退によって病気が蔓延して弱っていた木が強風によって倒され、復旧に時間がかかってしまったことが挙げられています。先に掲げた農作物への影響だけではなく、強風による倒木や大雨による地すべりといった災害も懸念されており、森林を抱える地域はいずれも深刻な状況と言ってよいでしょう。

■ 生態系が健全に保たれた森林を目指す

田んぼの奥の山々は鬱蒼とした杉林

 そんな状況から、神山町では神山の山を将来によりよく残すため、昨年の6月「神山の森林ビジョン(整備編)」が策定されました。策定に先立ち、木や森に直接的・間接的に関わる様々な人々からお話を聞く「神山のやまを語る会」が数回にわたって開催され、関心のある住民は誰でも参加できる場が設けられました。それを元に策定された森林ビジョンは70年後の森林を想定して、目指すべき森林の姿を描き、現状を分析し、現実的にそのビジョンを達成するために必要な財源や人員の確保等について計画しています。このビジョンの策定に関わった人たちの中で70年後の神山の山を目にすることができる人はほぼ皆無に近いことでしょう。それでも今ある木を適切に伐採し、理想のバランスになるように樹木の種類を変え、保水機能が復活し、川の水量も整っていくような状況になるには、少なくともそれくらいの年月がかかるということなのです。

 面積は広大で、担い手不足を始め数々の問題を抱える林業ですが、70年後の理想の森林・山を思い描きながら、一歩一歩前進していくしかありません。毎年進捗状況の報告会も催されることになっており、まずは数年後の変化を楽しみに、関われることは積極的に関わりつつ、見守っていきたいと思います。

赤く色づいた紅葉、奥の方は杉林が広がる

(2020.10.28)

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