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今日も美味しく、楽しく、気持ちよく――未来につながる日々の暮らし

【第10回】しわしわいきないよ

徳島・神山町で人気の「カフェ オニヴァ」長谷川浩代シェフの連載

徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食のことなど…定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回は、何だか耳心地よい方言の話とビールに合うおつまみもご紹介します。[月2回更新]

■当初はびっくりした阿波弁

 3月に始まったこの連載も今回で10話目を迎えることになりました。季節も春から夏へ。第6回でお花を紹介したすだちは、小粒の実が姿を現し、摘果が始まりました。すだち農家さんにとってはいよいよシーズンイン。これから梅雨が明けると襲ってくる地獄のような暑さの中、9月末の収穫終了まで神山がもっとも忙しくなります。

 徳島県は昔で言うところの阿波の国。方言は阿波弁と呼ばれ、関西出身の私が耳にすると関西弁よりは岡山や広島といった中国地方の言葉に近いように思います。移住後7年が経とうとしている今でもご年配の方が阿波弁だけで会話されていると、「今のわからなかった!」ということがまだまだあります。神山独特の神山弁もあり、トンネルがなかった頃は、徳島市内から神山町に来るのは相当大変だったらしく(今は車で徳島駅まで40分、空港まで1時間です)、独自の言葉が発達していったことも容易に想像がつきます。

 移住した当初、たくさんの言葉に戸惑った記憶があります。家に訪ねてきた人が「おるでー」と叫んでいます。関西でも「おるで」は使いますが、「ここにいるよ」という意味で使います。私が言うならわかるけど、なぜ来る人が言うの?と頭に?マークが飛びました。こちらは「おるで」は「おるで?」ということで、「いますか?」という意味で使われています。
「おまはん、そらせこいでよ」と言われた時もドキッとしました。関西では「せこい」っていうのはケチだということ。いきなり「ケチだね」と言われたのかと勘違いしてしまうけれど、実は「あなた、それは疲れるわよ」という意味。
同じく「ひどいなあ」は「しんどいなあ」ということ。こちらもいきなり「ひどいなあ」と言われたら「え、何もしてません!」って思いますよね(笑)

■耳に残るかわいらしい響きも楽しい

 そして、最初全く何を言ってるのかわからなかったのが「あるでないで」。どういう意味だと思いますか?なんだかおまじないのようなこの言葉、「あるんじゃないの?」が正解です。
 驚くばかりでなく、かわいらしいなあと感じる言葉もいろいろあります。「こうやるんじょ」というのは「こうやるのよ」という表現。「行くんじょ」「食べるんじょ」「歩くんじょ」という風に使います。なんともほのぼのした感じです。
「まけまけ」はギリギリいっぱいという意味で、お酒や食事の席でよく聞く言葉。まけまけに注ぎあって、みんないい感じに「よたんぼ(酔っ払い)」に。
 
 そして徳島出身じゃない人には何だか心に残る「しわしわ」という言葉。「ゆっくり、少しずつ」の意味ですが、とてもよく耳にします。根を詰めているときなどに、「まあしわしわいきないよ。(まあぼちぼちやりなさいよ)」と言ってもらえると、すごくほっとしたりします。

■神山のブルワリーも紹介します

SHIWASHIWA ALEのラベリング中

 神山には2年前に KAMIYAMA BEER というマイクロブルワリーができましたがそこのビールの1つにも「しわしわ」の名前が付けられています。SHIWASHIWA ALEには通常の麦芽以外に神山で70年以上も種が継がれてきた小麦が使用されています。
まさにしわしわと作り続けられてきた小麦の入ったビール。このブルワリーは2013年のアーティストインレジデンスの招待作家だった阿部さやかさんとパートナーのアイルランド人のマヌスさんが立ち上げたもの。2人は当時オランダアムステルダムに住んでいたのですが、神山町のことが気に入って、その後も何度も足を運んでいる間にこちらへの移住を決意し今に至っています。

 このKAMIYAMA BEER PROJECTのブルワリーの建物は、設計は彼らのオランダ人の友人ですが、建てたのは整地もコテージや様々な建物を建てるのも全て自分で作ったキャンプ場を運営している地元の方が中心となっています。言葉の壁も乗り越えて、この時期を経てマヌスの日本語はグググっと上達しました。とても素敵な関係性だなと思っています。
そしてもう一つ特徴的なのが上述の小麦以外にも、すだち、梅、さくらんぼ、無花果、赤しそ、みかんなど定番商品からシーズナルビアーまで地元神山産の材料がいろいろ使われていて、どれも美味しくて魅力的なラインナップです。

ブルワリー (奥に見える建物) の庭でマーケット

■ブレッシング家のビールを飲み比べ

 そんな彼らとある日マヴィのブレッシング家のビールを一緒に飲みました。ホワイトブロンドアンバーIPAスタウトと飲み進めたのですが、一口飲むなり、「野生酵母(蔵付きの酵母)を感じる」との第一声が出ました。
さすが小さな村の極少量生産、こだわりのビールの特徴が感じ取れたようです。ブロンドは麦芽の味がしっかりして、フレッシュかつビターさも感じ、マヌスの表現を借りると「フランスっぽいね」とのこと。アンバーは軽く甘みも感じますがバランスが良くて「美味しい!」と。IPAはブリティッシュスタイルだね、日本人が慣れているアメリカのIPAはもっとドライだから驚くかもしれないけど、ブリティッシュスタイルだとこんな感じとプチビール講座も。
そして最後のスタウトはコーヒーの香りが印象的。どうしてもチョコレートを合わせたくなってしまうけれど、想像したよりもドライタイプだったのでお料理も結構いけそう!

■止まらない美味しさ!スタウトのおつまみ

是非試したい!バルサミコ酢が決め手のおつまみ

 そんなわけで、すぐにできそうなおつまみを作ってみました。じゃがいもは新じゃがなら皮付きのまま薄めのくし型切りにします。ニンニクは薄切りにしておきます。フライパンにオリーブオイルを多めに入れ、ニンニクを入れ香りを移します。低温でじっくり揚げたら皿に移し、そこにじゃがいもを入れて火が通るまで炒めます。途中塩を加え、最後にバルサミコ酢を加えて全体に絡めます。皿に盛り、黒胡椒をひいて、最初に取り出したガーリックチップを添えてできあがり。バルサミコ酢はできればちょっと煮詰まってとろっとしたタイプがおすすめです。バルサミコ酢の甘みと酸味で少しキャラメライズされたじゃがいもはスタウトがやめられなくなる味わい。だからと言って、飲み過ぎ食べ過ぎには用心してくださいね。
「まあ、しわしわいきないよ。(まあ少しずつゆっくりにしなさいよ)」

(2020.07.22)

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